箱庭~話の花束~Episode1〜
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『りんご』
美術の静物デッサンの時間のことだった。
「あのりんご見とったら、なんやりんごジュース飲みたなってきたわ」
隣りの忍足くんが、鉛筆を動かしながらそう言った。
「ふーん。なら授業終わったら、先生に言ってりんご貰ってあげようか?」
あたしも鉛筆を忙しく動かす。
「え、いや、生りんごやなくて、欲しいんはりんごジュースや」
少しだけ驚いた風に忍足くんはあたしを見た。
「だから、あのりんごを搾れば果汁100%ジュースでしょ?」
「せやけど……」
「何が不満?」
「いや、なんも不満は……」
ないはずやねんけど……と、いつになくキレが悪い感じで首を左右に振っている。
「なら決まりね。まあ、任せてよ。器具なんてなくたって、手で搾れるから」
「……今、サラッとエラい事聞いた気がすんねんけど……あんた握力いくつなん?」
忍足くんがそろりとこちらを窺う。
「左手で72」
「……み、右やと」
「80」
ガタンッと大きな音を立てて忍足くんが無言でのけぞった。
「うるさいぞ、忍足」
「あ、すんません」
忍足くん、先生に注意されてあわてて謝っている。
「……その握力やったら、手搾りのジュース屋開業出来るで」
「でしょ?」
ニンマリと笑うあたしに、何やら焦って自分の手を見る忍足くん。
「と……」
で、焦るから消しゴム落としたり。
「あれ、あんたの上履き新品やん」
あたしの足元近くに転がる消しゴムに手を伸ばしながら言うから
「前のがキツくなったのよ。はい、消しゴム」
代わりに拾ってそう答えた。
「あ、おおきに……足、育ったん?」
素直に大きくなったって言えばいいのに。
「うん、27.5センチ」
「忍足!」
「す、すんません」
また、あわてて椅子に座り直す忍足くん。
相変わらず萌えさせてくれるし、可愛いな。
そう、あたしは氷帝一デカい女。そして、氷帝一デカい足の女。そしてまた、氷帝一握力のある女でもある。
めでたく三冠達成したわけで、記念にりんごジュースでも搾ってあげようか、って気分にもなるわけさね。
「それテニス部でやらへん? 負けず嫌いな宍戸や岳人が、ムキになって挑戦しそうでおモロそやわ」
「受けて立つわよ」
にこりな笑顔と、Vサインを忍足くんに送った。
これでまた、伊達眼鏡と泣きボクロの秘蔵写真集が増えるってもんじゃないさ。
話を聞いた跡部が、面白がって高級フルーツを取り寄せたとか寄せないとか、ともかくもその日の部室は甘い香りにあふれていたとかいないとか……。
fin.