箱庭~話の花束~Episode1〜
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『恋愛相談』
「千石さん、ちょっと質問していいですか?」
部活中の休憩時間に室町が千石に近寄ると、辺りをはばかるようにそっと耳打ちして来た。
「何だい、室町クン。意味深だね~。さては恋愛相談かな~?」
からかうように千石も、声をひそめると横目で笑った。
「よくわかりますね。さすがラブハンターな千石さんだ」
「え、マジなの?」
冗談で言ったのに、真面目に肯定する室町に思わず驚く。
「……誰だい? その相手って」
「はい?」
「室町クンの想い人だよ。相談ってことは、片想い中で告白のタイミングをはかっているんだろ?」
千石は好奇心ありありな目で、ニヤニヤと笑った。
「違いますよ。クラスの女子に千石さんに聞いて欲しいって頼まれたんです。まあ、内容は恋愛相談ですから当たってますがね」
「なーんだ。つまんないな~奥手な室町クンにもやっと春が来たのかと思ったのに」
室町の言葉を聞くと、とたんに、空気が抜けた風船のように千石の表情がしぼんだ。
「で、相談ってのは?」
気を取り直すと千石は、ベンチに座り直した。
一応は女の子からの相談なのだから、と気合いを入れたようだ。
「質問は、どうしたら失敗しない恋愛が出来るか、だそうですよ」
思い返すように空に視線を向けると、室町は千石に言った。
「へーえ……」
その問いに、始めはポカンとした顔をしていた千石だったが、やがて面白いことを聞いた、というように笑いだした。
「答えは簡単だよ、室町クン」
さすがの千石でも、これは難しい質問だろうと思っていたのに、ひとしきり笑っただけでそう言った。
「恋愛で失敗しない方法はね、恋愛をしないことだよ」
「あ……」
確かに、と室町も思った。
「でも、だとしたら寂しい人生だと思わないかい? 好きな人もいない、失恋もない。そんなの楽しいかな。成功ばかりより、失敗から学ぶことのほうが大きいと思うけどな」
うん、と腰を伸ばして立ち上がると千石は室町を振り返った。
「負けた試合は、勝った試合よりずっと勉強になると思うよ」
千石の笑顔に室町も立ち上がった。
「ありがとうございます、千石さん。そう伝えます」
「うん。この世に生まれた以上は、いっぱい恋して、フラれて泣いて、笑って、うんと素敵な笑顔になれる人になって欲しいよね」
コートに向かう千石の背中を見ながら、サングラス越しの室町の瞳も柔らかくなった。
fin.
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