箱庭~話の花束~Episode1〜
空欄の場合は夢小説設定になります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『恋愛相談』
「千石さん、ちょっと質問していいですか?」
部活中の休憩時間に室町が千石に近寄ると、辺りをはばかるようにそっと耳打ちして来た。
「何だい、室町クン。意味深だね~。さては恋愛相談かな~?」
からかうように千石も、声をひそめると横目で笑った。
「よくわかりますね。さすがラブハンターな千石さんだ」
「え、マジなの?」
冗談で言ったのに、真面目に肯定する室町に思わず驚く。
「……誰だい? その相手って」
「はい?」
「室町クンの想い人だよ。相談ってことは、片想い中で告白のタイミングをはかっているんだろ?」
千石は好奇心ありありな目で、ニヤニヤと笑った。
「違いますよ。クラスの女子に千石さんに聞いて欲しいって頼まれたんです。まあ、内容は恋愛相談ですから当たってますがね」
「なーんだ。つまんないな~奥手な室町クンにもやっと春が来たのかと思ったのに」
室町の言葉を聞くと、とたんに、空気が抜けた風船のように千石の表情がしぼんだ。
「で、相談ってのは?」
気を取り直すと千石は、ベンチに座り直した。
一応は女の子からの相談なのだから、と気合いを入れたようだ。
「質問は、どうしたら失敗しない恋愛が出来るか、だそうですよ」
思い返すように空に視線を向けると、室町は千石に言った。
「へーえ……」
その問いに、始めはポカンとした顔をしていた千石だったが、やがて面白いことを聞いた、というように笑いだした。
「答えは簡単だよ、室町クン」
さすがの千石でも、これは難しい質問だろうと思っていたのに、ひとしきり笑っただけでそう言った。
「恋愛で失敗しない方法はね、恋愛をしないことだよ」
「あ……」
確かに、と室町も思った。
「でも、だとしたら寂しい人生だと思わないかい? 好きな人もいない、失恋もない。そんなの楽しいかな。成功ばかりより、失敗から学ぶことのほうが大きいと思うけどな」
うん、と腰を伸ばして立ち上がると千石は室町を振り返った。
「負けた試合は、勝った試合よりずっと勉強になると思うよ」
千石の笑顔に室町も立ち上がった。
「ありがとうございます、千石さん。そう伝えます」
「うん。この世に生まれた以上は、いっぱい恋して、フラれて泣いて、笑って、うんと素敵な笑顔になれる人になって欲しいよね」
コートに向かう千石の背中を見ながら、サングラス越しの室町の瞳も柔らかくなった。
fin.