箱庭~話の花束~Episode1〜
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『有名曲』
「あーん? 何だって、もう一度言ってみろ」
生徒会室から出て来た会長の跡部は、
「せやから、吹奏楽部との頂上決戦中やから跡部も来てや。部長なんやし」
と、ドアの外で待機していた忍足に捕まった。
「……吹奏楽部?」
「せや」
「……頂上決戦?」
「せや」
「……」
吹奏楽部とテニス部が、一体何で戦うのだろう。
さすがの跡部も頭をひねる。
体育館に着くと
「知ってる」
「知らねー」
曲が奏でられるたびに大きな拍手や声がかかる。
見渡せば館内に所狭しとパイプ椅子が並び、生徒がひしめいている。
「……何だ?」
跡部にはわけがわからず目が丸くなる。
「事の発端は、吹奏楽部の練習しとる曲を聴いた宍戸が、何の曲か知らへん言うたことやね」
「……あ?」
「吹奏楽部にすれば学園祭に向けて選曲した、割にポピュラーな曲のつもりやったのに、ジローや岳人、日吉も知らへん言うもんやから、俺ら全員が知っとる曲を演奏したる、とムキになったわけやね」
「……それなら、テニス部は聴いてりゃいいだけだろ?」
「そこが、売り言葉に買い言葉やねん」
「……チッ、負けず嫌い達めが……」
そこまで聞けば跡部にもわかる。冷やかしで『知らない』を連発しておけば、相手も『それならお前達がやってみろ』となるだろう。
で、騒ぎが大きくなり、いつの間にやら他の生徒が集まり……のパターンだ、と跡部は思った。
小さくため息を吐くと、跡部は舞台袖の階段へ向かった。騒ぎの幕引きは部長の役目だ。
つい……と、軽やかに跡部が舞台上に姿を現した。
とたんに客席にいた女生徒達の、ざわめきとどよめきが館内に広がる。
「話は聞いた。吹奏楽部の部長、並びに部員の諸氏、練習の邪魔をしたようで悪かったな」
ステージにいた吹奏楽部員達は、突然の跡部の謝辞に面食らった。
「いや、演り始めたら結構面白かったよ」
吹奏楽部の部長らしき人物が立ち上がると、照れたように頭をかいて笑った。
「そうか、それならいいが……」
少しだけ考える仕草を見せた跡部は
「迷惑料だ。俺様もここにいる全員がもれなく知っていて、しかも踊れる曲を披露しよう」
そう言うとニヤリと笑った。
その言葉に歓声と拍手が沸き起こった。
「跡部」
忍足が跡部に近寄ると、すでに出つくした曲名をザッと早口で耳打ちした。
「せやから、童謡やのヒット曲はネタ切れやで」
「ハッ、そんなの関係ねぇ。お前達には、ガキの頃から叩き込まれて自然に身体が動くほど、染みついた曲がちゃんとあるじゃねぇか」
「え……」
跡部は、今までテニス部代表で鳳が座っていたグランドピアノの椅子に腰掛けると、勢いよく両手を鍵盤上に振り下ろした。
「あっ」
「え……」
「知ってるC~」
館内が笑いと喝采に包まれた。
「さすがやね」
忍足も思わずほくそ笑んだ。
跡部の弾いた誰でも知っている踊れる有名曲とは……。
『ラジオ体操第1』
だった。
fin.