箱庭~話の花束~Episode1〜
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『ポップコーン』
うららかなある日、学校の校庭と体育館でバザーが行われた。
「あれ、君はバザーの係だったの?」
大きめの紙のカップへ、はじけたばかりの熱々のポップコーンをすくって入れている少女の姿に、不二が声をかけた。
「あ、不二先輩」
そうです、と楽しそうな笑顔で少女は答えた。
「先輩もポップコーン、いかがですか?」
少女の笑顔に不二の瞳も柔らかくなる。
見るとポップコーンの機械の置かれたテーブルには、塩、バター、カレー、黒胡椒と書かれた紙が張られていた。
「へえ、意外に味が揃っているんだね。じゃあ、黒胡椒でお願いしようかな」
「はい、ありがとうございます。胡椒はたっぷりですね」
不二の言葉を予想していたように、少女はにこやかに微笑んだ。
「あ、そうだった。いけない……」
少女はハッと思い出したようにつぶやくと、
「ちょっと待ってて下さい先輩。先輩には特別サービスがあるんです」
そう言うと、少女はポップコーンをかかえたままテントの奥へ走りしゃがみ込んだ。
係員の鞄や荷物が置かれた場所で、しばらく何かゴソゴソとしていたと思ったら嬉しそうに立ち上がりこちらへ戻って来た。
「はい先輩、どうぞ」
笑顔と一緒に差し出された出来たてのポップコーンは、ほんのりと緑色に色付いていた。
「え……」
受け取ったカップから、ふんわりと嗅ぎ慣れた香りが漂った。
「これ……もしや」
「はい、わさびです。不二先輩特製のわさびポップコーン」
ただ、と少女は前置きした。
「昨日家にあった粉わさびを見て思いついて、今日初めて作りましたから、味はどうかわかりません」
「ふふ、君が作ったものなら間違いなく美味しいよ」
ひとつ指先につまむと、不二は自分だけに作られたポップコーンを口に運んだ。
「うん、言った通り」
不二の言葉に少女の笑顔も華やいだ。
「あ~不二、見ーけっ、と。ポップコーンじゃん! 美味そー……と、何で緑色?」
不二の背中から走り寄って来た菊丸が、手元のカップを覗き込むと伸ばしかけた手が止まった。
「食べる? お試し抹茶味だよ」
「抹茶ポップコーン? へえ、珍しいね。いっただきま~……ぶっ!」
一度につまめるだけの量を口に入れた菊丸は、途端両手で口を押さえ水飲み場へ猛然と駆けて行った。
「ひどいよ、不二ーっ!」
遠くから菊丸の涙声が響いた。
「ふふ」
不二が楽しげに笑った。
「これなら君の手作りも独占出来るね」
不二に微笑まれ、少女ははにかんで視線を落とした。
fin.