箱庭~話の花束~Episode1〜
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『入学式3』
暖かな日差しと柔らかな風、そしてまぶしいほどの青空に満開の桜が映える中、ここ立海大附属中学校でも入学式が執り行われた。
「さーて、こん中で何人くらいが今年はくるかな~」
「まあ、例年通りじゃなか?県内でテニスを目指すなら、まず立海じゃからのう」
入学式に向かう新入生達が、ぞろぞろと体育館に向かう姿を教室の窓から見下ろす丸井と仁王がいた。
「丸井くん、仁王くん、そろそろ集合ですよ」
隣りのクラスから出てきた柳生が二人に声をかけた。
「あ…今行く」
「ほお、お前さん達は一緒のクラスか?」
柳生の声に振り返った仁王が、柳生と並ぶ真田の姿にそう問いかけた。
「ああ、そうだ」
「へえ、面白ぇ。俺と仁王と真田と柳生か。あと同じクラスになった奴はいるのかな」
テニス部の新三年レギュラーを思い浮かべながら、丸井は教室から出てきた。
「残念ながらあとは一人ずつバラバラだ」
いつの間にか真田の横に柳がいた。
「新三年レギュラーのうち四人もクラスが重なるなら、かなりいい感じじゃないか」
集まりの輪にジャッカルが加わり、テニス部三年レギュラーがゆっくりと校舎の階段を降りる中、
「あ、先輩方」
二年生の教室から切原赤也が待ちかねたように駆け出して来た。
「赤也は何組になったんだ?」
「俺はD組っすよ」
丸井と並びながら、どことなく浮き足立つように切原が陽気に言った。
「あれ、どうしたんだい。今日は早いね」
入院中の幸村の病室に揃ったメンバーを見て、幸村は読みさしの本を閉じた。
「今日は始業式だ」
「今日…?」
真田の言葉に、虚空を見つめるように思考を巡らせると
「こんな所に閉じこもっていると感覚が鈍るな…」
幸村は苦笑を浮かべた。
そして視線をゆっくりと窓の外へ向けると、澄んだ青い空を見つめた。
「そうか、今日から新学期なのか…」
「精市はC組だ」
「C組? ふうん。蓮二は?」
柳の言葉に少しだけ明るい表情になった。
「俺はFだ」
「俺はD組っすよ、幸村部長」
切原が乗り出すように満面の笑みで自分を指差した。
「赤也は元気だね」
「それが取り柄っすから」
それだけで部屋の中が明るくような、屈託のない笑顔を見せた。
「それより部長、お見舞いってほどじゃねぇんですけど…」
切原がゴソゴソとポケットから何かを取り出した。
「やべっ!しおれてる…」
「え…」
ティッシュに包まれたものを、いささかしょげた顔で幸村にそっと差し出した。
「つくし…」
切原の広げたティッシュの上に、頼りなげに数本のつくしとたんぽぽがぐったりとしていた。
「すぐに水に…あ、入れ物が…いいや、このカップに入れて」
花を生けるような小さな入れ物がないため、幸村は自分の湯飲みとして使っているカップを差し出した。
「待てよ、カップ使っちまったら幸村くんが困るだろぃ。今俺が空きカップ作ってやるぜ」
そう言うと、手に下げていたスーパーの袋をどんと幸村のベッドの上に置くと、勢いよく中からプリンを取り出した。
「ほんとは幸村くんの見舞い用だけど…」
一応言い訳をしてから、一気にプリンを口に入れた。
「ほひ」
モグモグさせながら空の容器を切原に手渡す。
「ラジャっす」
切原は受け取った容器を部屋にある洗面台で洗った。
「一秒だな」
「感心するぜよ」
つくしとたんぽぽは、ようやく水の中へと浸された。
「あ、これも一緒につけてくれよ」
ジャッカルが小さな桜の枝先を取り出した。
「桜…これ、どうしたの」
ジャッカルを見上げる幸村に
「折れて落ちていたんだ。まだ蕾もいっぱいついてるしさ、何か気の毒で」
照れくさそうに言った。
「ふふ、ありがとう」
幸村の病室の窓辺にも、ようやく小さな春が訪れた。
fin.