箱庭~話の花束~Episode1〜
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『入学式2』
「跡部、そっちの準備はもう出来たんか?」
明日が入学式、という前の日。ここ氷帝学園中等部も、春休み返上で在校生が支度に余念がない。
「ああ、後は新入生を迎えるだけだ」
体育館のステージから跡部が姿を現すと、入り口で立て看板の設置をしていた忍足と合流した。
「桜も満開でよかったわ」
「まったくだ」
正門脇からフェンスに沿って桜並木があるが、今を盛りと見事なまでに咲き誇っている。時折吹く風に乗って花びらが舞い散るが、それは風情をそそるだけで花の勢いをそぐものではなかった。
「桜吹雪ちゅうんは、ほんまやね」
ひらひら、はらはらと振り散る花びらはあたかも雪のようだ。忍足はまぶしそうに青空に目を向けると、桜の枝から離れて空の青色に溶け込んでいく花びらに見入った。
「ああ」
跡部も忍足に並んで立ち止まると、日の光に輝く花びらを見つめてゆっくりとまばたいた。
「けど、早いもんやな。こないだ入学したと思うたら、もう三年やなんて」
「まあな」
また二人は歩き出した。明日からは新学期だ。始業式と入学式が終われば、慣れない新入生はともかく、在校生は部活も再開される。
卒業生の抜けた分の人数はすぐに補充されるだろう。
今年はどこまで入部希望者がやってくるであろうか。
翌日の入学式は快晴だった。一段と桜のあでやかさも際立ち、どの親子も競って正門前での写真撮影を行なった。
「おめでとうさん、これつけてや」
忍足は、新入生の胸元に微笑みと一緒にピンクの造花を止め付ける。
生徒会長の跡部が壇上に現われると、新入生の女子生徒がざわついた。祝辞を読み上げる間中、さざ波のようにこそこそと落ち着かない様子が、在校生席からも容易にわかる。
「はあ、いたいけなお姫さん達が、また跡部の毒牙にかからへんとええけどな」
ため息混じりな忍足に
「毒牙って、それだと跡部部長がかなり悪い人みたいですよ?」
こそっと鳳が囁いた。
「ウス…」
樺地も抗議している。
「冗談やって。あれで跡部は努力家やからな」
二人の跡部援護に苦笑いを浮かべると、在校生代表達は校歌を歌うために立ち上がった。
式が終われば後は帰るのみ。さすがに今日は部活もない。在校生もクラス分けがされ、新しい教室に新しい仲間、とまだしばらくは落ち着かない日々だろう。
「はあ、俺好みの足の綺麗な子…見当たらへんかったかな…」
思わずため息をついた。
「今はこないに咲いとるけど、そのうちこれが桜やったことさえ忘れてまうんやろな」
忍足は昨日と同じように桜を見上げた。
新緑の頃になると、あれほど晴れがましく咲き誇った桜の花のことは忘れられてしまう。
また春を迎えるまで。
初々しい新入生達も帰っていく。大きめの制服に真新しい鞄。
「何や、ええな…」
忍足も穏やかな笑顔がほころぶ。
風がまた、花びらを一斉に吹き上げていった。
fin.