箱庭~話の花束~Episode1〜

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『Believe2』


テニス部部室内の自分のロッカーを片づける手がふと止まる。
「どうした、精市」
隣りで同じように片づけていた柳蓮二が、ぼんやりとしてしまった幸村に声をかけた。

「…ああ、何でもないよ」
柳の声で再び片づけを再開したものの、心ここにあらずは変わらない。

(……)
柳の頭脳コンピュータが作動する。
(そういや最近会っていないな…)
テニス以外の幸村の行動には、あの少女が大いに関係してくる。
(なるほど…)
だが、お膳立てをしてやるほどのことではない。自分でやることに意味がある、と柳は結論を出した。

「さてと、俺の所は片づいたから弦一郎の方を見てくるよ」
用具室やコート整備の監督に出ている真田や、他のメンバーを見に柳は部室を後にした。

一人ポツンと部室に残った幸村は、そっと携帯を取り出した。
《今、何をしているの?》
学校なら返事は来ないとわかっているのに、無性に繋がりを持ちたかった。

《今は予餞会の合唱の練習中です。こっそり返事入れました》
と、にっこり笑う顔文字と一緒に返って来た。

「……!」
嬉しさが込み上げた。
それと同時に、少女に送られる手塚達青学のメンバーが羨ましいと、少しだけ残念な気持ちも湧いた。

《合唱曲って、何を歌うの?》
《ビリーブという曲です。ご存知ですか?》
《わからないな。でも、聴けばわかるかな?》
《どうでしょうか? あたしも知らない曲でしたが、とても綺麗な曲ですよ》

携帯を閉じた幸村は、手早く残りの片づけを済ませ部室を後にした。
しかし、向かった先はコートではなく職員室だった。

「ビリーブ? それなら楽譜もCDもあるわよ。合唱部のコンクールの課題曲にもなったりするから」
音楽担当の教師は幸村の質問に快く回答し、譜面のコピーとCDを貸し出してくれた。

『はい? あたしが立海へ伺うんですか?』
幸村の耳に少女の戸惑う声が届く。
「そう。卒業前にぜひ君に来て貰いたいんだ」
卒業…と聞くと少女も思うところがあるのか、すんなりと承諾の意を幸村に伝えた。


「でも、いいんでしょうか…他校生が…」
いざ立海の正門前に立つと、少女は心配そうに幸村に言った。
「大丈夫、心配はいらないよ。俺がついているしね」
穏やかな幸村の笑顔に、少女の顔にも安堵の色が広がる。
暖かな土曜日の校内は、生徒達の喧騒もなく静けさが漂う。ただ1、2年の部活はあるらしく校庭からはボールを打ったり蹴ったりする音が響く。
「ここが俺の教室。で、ここが俺の席」
3年C組とある教室に少女を案内すると、幸村は自分の席に少女を座らせた。

通い慣れた青学と違う校内に、少しばかりキョロキョロする少女を幸村は教卓からにこやかに見つめる。
すると少女は余計落ち着かなくなり、何度も席を立とうとするが、そのたび幸村から制せられ座り直した。
二人きりの教室でじっと見つめられる少女は、ひたすら恥ずかしさに耐え忍んだ。

「ふふ、こういうのを至福の時間って言うのかな」
少女を見つめながら幸村は微笑む。
「え……」
何と答えればいいものやら、あまりにもゆっくりと流れる時間と幸村の視線の中で、少女の頬は淡く桜色に染まる。

「あれ、幸村くん。今日はどうしたの?」
ようやく3年C組から出ると、教師が声をかけて来た。
「妹が今度立海に入るので、案内に来たんですよ」
「ああ、そうなの。よろしくね、お兄さんモテモテだったわよ」
幸村の嘘に教師は疑問を持たず、少女に笑顔を向けた。

「あの、幸村さん。今度中学って、あたし小学生に見られてもおかしくないってことですか?」
教師が行ってしまった後の少女のわずかに焦る言葉に、幸村はクスクスと笑った。
「今の小学生は大人びた子が多いよ。つまり君も大人っぽく見えるってこと」


「さて、ここだよ」
音楽室に通された少女は何をするのか見当がつかなかったが、幸村がピアノの蓋を開けると驚きの声をあげた。
「幸村さん、ピアノ弾くんですか?」
「妹に特訓して貰った」
小さく微笑むと、しなやかな指先が鍵盤からメロディを紡ぎ出した。
「あ…これは…」
少女の耳に馴染んだ曲が流れ込んでくる。
「だから弾けるのはこの曲だけだよ」

「歌ってくれる?」
俺のために、と幸村は少女を見つめて告げた。

君との未来を信じてるから…。

fin.
 
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