箱庭~話の花束~Episode1〜
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『90センチ』
体育の授業は、男女一緒にやることはあまりない。
大抵が隣りのクラスと男女別に合同だ。
その日もそんな体育の日だった。
しかも1時間目からの体育だからやたら眠い。
(これがマラソンだったら2時間目は爆睡だね…)
越前リョーマはあくび混じりに上履きを外履きに履き替えると、昇降口から気怠そうに出て来た。
越前は校庭に集合した2クラスの最前列に並んだ。
ふと、隣りのクラスの女子に見慣れた姿を見つけた。
(あれ…今日はあいつ参加するのか…)
その少女は事故で足を痛め、体育ではいつも見学するばかりだった。
(へぇ…)
同じ授業に少女がいる。それだけで越前に自然とやる気と微笑みが湧いて来る。
種目は走り高跳びだった。
始めの高さは90センチ。跳び慣れて行けば5~10センチ単位で徐々に上げていく。
大した助走も必要とせず軽々と越前の身体はバーを越した。
「さすが越前。余裕じゃーん」
堀尾聡史が部活のように声援を送った。
「まーね」
これくらい、と興味なさそうに応える。
ただ、視線だけは女子の方へ素早く向けた。
丁度少女が緩かに助走をつけ、地面を蹴ったところだった。
少女の身体も軽々とバーを越えた。
(ま、90センチだもんな)
少女にも余裕の表情を見て取った越前は、視線を10センチ繰り上がったバーに向けた。
高さが1メートルを越えていくと、足にバーを引っかける者が出始める。
その中でも越前と少女はその身体を青空へ放り出し、空を跳び続けた。
チャイムが鳴って次回に持ち越しとなったが、記録よりまた一緒に時間を過ごせる喜びの方がはるかに大きい。
「あれ…」
放課後になりテニス部へ出た越前は、ネットが張られる様子を眺めているうちに、体育の走り高跳びを思い出した。
(そうか…ネットの高さって90センチなんだ)
あまり普段は考えてもいなかったが、体育で最初に跳んだバーの位置が妙に見慣れた高さにあると思った越前だった。
そしてその90センチを軽々と跳び越えた少女の姿。
そのままコートの向かい側からこっちへ跳んで来ればいいのに、と思った。
fin.