箱庭~話の花束~Episode1〜
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『たこ焼き』
「たこ焼きはええで~、むっちゃええわ」
「はい、美味しいですよね」
「テリーヌもいいぜ」
「え……と」
話を合わせて来た少女の顔に、ふと戸惑いが浮かぶ。
秋の文化祭で氷帝に呼ばれた他校の少女は、忍足と跡部からそれぞれの模擬店へと、やや強引に誘われている最中だった。
「跡部、生徒会の模擬店はフランス料理でも出しとるんか?」
「まさか、俺様限定の個人模擬店だ」
フッと軽い流し目から微笑むと、跡部は組んでいた腕をほどき前髪をゆるくかき上げた。
「個人模擬店やて? そないなもんあったんか? つか、やってええんか?」
忍足が驚きの表情を浮かべたが、それはすぐさまうさん臭げなものへと変わった。
「言ったろ? 俺様限定、出店場所も出店内容もすべて秘密だ。招待者も限定だからな」
(…ただの秘密サロンやん。つか、お姫さんしか招待せぇへんくせに、無駄にカッコつけたるな)
跡部とは反対に今度は忍足が腕を組むと、一拍置いてジロリと睨んだ。
「さあ、お嬢ちゃん、俺様と来な」
「俺とやろ? やっぱ祭りと来たら屋台のたこ焼きに焼きそばやで」
(……)
少女は悩む。気持ちはすでに屋台なのだが、この俺様を断ると後がどうなるか……。
それのみが心配になる。
だが、しかし……。
「あの…やはり庶民的にあたしは屋台…」
「屋台風たこ焼きにお好み焼き、無論焼きそばも用意出来る」
悩みの視線を跡部に投げ掛けたとたん、遮断された。
(う……)
提供者ではなく、食べ物で心が揺らぐ。
条件は同じはず…だ。
ただ、跡部の言う屋台風が若干気にかかる。
(屋台風と言うことは屋台ではないわけよね。フランス料理的なたこ焼き…?)
想像がつかない。たこ焼きのソースがフランス料理のソースなのだろうか。
今度は少女が腕を組み考え込んだ。フォンドボーだのブイヤベースだの、知る限りの知識を総動員させてはみたものの、元来料理の腕がさっぱりな少女には見当もつかない。
(でも、気になる……)
ついに少女は決心と結論を弾き出した。
「あの……」
「決まったん?」
「俺様だろ?」
「あの、最初に忍足さんと屋台のたこ焼きや焼きそばを頂いてから、跡部さんの屋台風たこ焼きなどを頂けたらと思うんですけど……」
「フ…味比べか。構わねぇぜ」
あっさりと跡部が承諾した。
(あれま。てっきり自分が先や言うかと思うたわ)
やや拍子抜けしたような忍足だが
「ほなお姫さん、行こか」
少女を伴い、文化祭の人混みへと流れて行った。
「ふん。後からの方が、お嬢ちゃんを送る時間までゆっくり出来るじゃねぇか」
屋台風たこ焼きでディナーまで……跡部のインサイトはどこまでも先を読む。
fin.