箱庭~話の花束~Episode1〜
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『left&right』
「コシマエ、ちょっと来いや」
「…何だよ」
「ええやん。あ、そこの眼鏡の部長さんもやで」
全国大会の会場で、越前リョーマは四天宝寺の遠山金太郎に声をかけられた。
「……何の用だ?」
「さあ…」
一緒に来るよう言われた部長の手塚にも、遠山に呼ばれるいわれはない。
「よっしゃー! 呼び掛けた奴は全員集まってくれたやろな?」
四天宝寺の近くのコートで、ぐるりと見渡す遠山の前にわけもわからず呼び出された面々が、ある者は眉をひそめ、またある者は不機嫌そうな顔を露骨に見せた。
「何やの金太郎」
「俺達はまだしも、よその学校までこないに集めて何する気や」
部長の白石と財前も、怪訝そうに聞いた。
「ったく、用があんなら早くしろよな」
「…目的は何じゃ?」
氷帝の向日と立海の仁王も口を挟んだ。
「目的はたこ焼きや」
「はあ?」
「皆目わからないですね」
六角の佐伯、比嘉の木手も順次困惑の眼差しを遠山へ向ける。
「ねぇ、用があるなら早く言ってくれない? アンタに付き合ってるほど暇じゃないんだ」
越前も皮肉っぽい視線を遠山へ向けた。
「はあー。短気は損気やで? あわてへんかてええやん。けどま、チャッチャとやったるわ。これ持ってや」
そう言うと遠山はかねてより用意してあったのだろう、屋台などでよく見かける小さな発砲スチロールのトレーに、たこ焼きひとつに爪楊枝を添えると各自に渡した。
「たこ焼き…?」
「………」
「まだ食べたらアカンで?」
一氏のつぶやきに無言でトレーを睨む石田銀。
全員にたこ焼きのトレーを渡した後、コート脇の審判席に登った遠山は指示を出した。
「ええか? ワイが食ってえぇっちゅうまでアカンで。口に運んで食べる直前のポーズだけとってや?」
カメラを構えた遠山が審判席から大きく手を振った。
「…早よせぇや、金太郎」
「よっしゃあっ! はい! たこ焼きや!」
目的もよくわからず、あきれた白石の言葉に遠山の威勢のいい声が響いた。
「うおっ! ほんまに揃った揃った! 見事やーっ!」
集められた面々が一斉にたこ焼きを食べかけるポーズに、驚嘆の声を上げる遠山。やたら嬉しそうだ。
「ほい! おおきに。それ食ったら戻ってええで」
シャッターを切ると、審判席から飛び降りた遠山は得意満面な顔で取り分けた残りのたこ焼きをひとつつまむと頬張った。
「…結局何なのさ」
気になるんだけど、とひと言つけ加えて越前が遠山を軽く睨んだ。
「これや!」
遠山は口をモグモグさせながら、デジカメの液晶画面を嬉しげに越前に見せた。
「……?」
そこには青学から越前と手塚の二名が。比嘉から木手、甲斐、新垣の三名が。四天宝寺からは白石、千歳、一氏、石田銀、財前の五名が。六角からは佐伯が。氷帝からは向日が。そして立海からは仁王の合計13名が一斉にたこ焼きを食べようと、トレーを片手に口元にたこ焼きを運ぶ構図が写っているだけだ。
(確かにこの人数で同じポーズは壮観だけど…)
だから何だ、と越前はいぶかしんだ。
「気ぃつかへんか?」
「……」
「…ああ、そういうことですか」
「また、妙な共通点を見つけるもんじゃ」
越前の手にある液晶画面を後ろから覗き込んだ木手と仁王が、遠山の仕掛けに気づいてニヤリと笑った。
「え…」
「行くぞ越前」
手塚に呼ばれ、仕方なく越前は青学メンバーのいるコートへと向かった。
「部長はわかったんすか? 俺達が集められた理由」
「ああ、他愛もないことだ」
「何すか?」
「左利きだ」
「え…」
「あそこに集められた連中は全員左利きの選手だ」
越前は液晶画面を思い出した。確かに全員右手でトレーを持ち、左手で爪楊枝に刺したたこ焼きを口に運んでいた。
妙に整っておかしな光景に思えた。
(変な奴…)
越前はそんな写真を面白がる遠山に、少しだけため息をついた。
「けど何でやろ。四天宝寺、左利き率異様に高いでぇ…」
残ったたこ焼きを飲み込むと、ソースやマヨネーズのついた指先をペロペロと舐めながら遠山はメンバー中、右利きなのは自分と忍足謙也と金色だけなことに改めて首をひねるのであった。
「じき試合が始まるよ」
コートに戻った二人に不二が声をかけた。
全国大会初日、午後の部が始まろうとしていた。
空はどこまでも青く、くっきりとした選手達の影をコートに落とした。
fin.