箱庭~話の花束~Episode1〜
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『キングのいた夏』
熱い夏が終わった。
微動だにせず立ち尽くした、あの夏は終わった。
「チッ…」
思い出すと時に歯がゆくイラついてしまう。だが、今さらイラついても結果の出てしまったことだ。
跡部景吾は、自分の場所のひとつでもある生徒会室の窓から何を見るでもなく、ぼんやりと視線を泳がせた。
まだ暑さが時折よぎる九月の空は、初秋と晩夏が入り交じる。それでも空の高さと澄み渡る空気を感じる。
ただ、夏の空のようにくっきりとした青と白の境がない。
今の自分のようにどことなくぼんやりとしている。
「…考えても始まらねぇ」
跡部は会長用のデスクに視線を戻した。二学期は行事が目白押しだ。体育祭に学園祭、芸術鑑賞だの何だのと色々とオマケがついてくる。そのための書類が山積みだ。
全国大会後、三年生は部活から名目上は引退する。
跡部もまた、部長の名は後輩に譲った。だが、指導の名の元にテニス部へ顔を出せば、「跡部部長」と口々に呼ばれる。悪くはない。
「会長」と「部長」共にこの三年間ついて回った肩書きだ。
当然次の三年間も狙うし、高等部の上級生達も次に跡部が入学して来ることはわかっている。
刺激を与えてくれるのは己を磨き上げてくれるテニスと…
「あいつか…」
独り言のようにつぶやいた跡部の厳しかった眼差しに、優しさがふとこぼれた。
全国大会で見かけた姿。スタンドの中のたった一人をインサイトで追った。
来年、また新たに全国を目指す。高等部として、より強敵がいないとも限らない。
「…その時に果たしてお前は傍にいるのだろうか…」
薄い雲が淡く空に溶け込むように、跡部の言葉も他に誰もいない生徒会室に流れて消えた。
部長は譲っても、キングの座は誰にも譲らない。
そしてあいつも…。
跡部はもう一度窓から空を見上げた。
同じ空。続く空。
いつか、星を見る約束をした。虹を見る約束をした。
「ま、少しだけ待ってろ」
捕まえようとすると、するりと逃げてしまうその人を跡部は目の奥で思い返した。
いつか、栄光と共にこのキングの腕の中へ…と。
fin.