『ノーブレス・オブリージュ』


「最近よからぬ噂を耳にするんだが…」
「…何がだ…？」
関東大会も間近いある日の部活中、青学の乾は手塚にそっと耳打ちした。


「この頃、妙な噂を聞くんですが…」
「何や？」
氷帝の鳳はけだるい暑さの中、忍足にそっと自分の聞いた噂を伝えた。


「精市、最近はどうもよくないことが横行しているようだ」
「え…」
立海では柳が幸村に事の動向を伝えた。


「そういうわけだから帰りは充分気をつけるんだぞ、手塚」
「ああ、わかった。気をつけよう」
コートへの視線を忘れず、手塚は乾に答える。


「ハッ！　バカバカしい。俺様を誰だと思ってやがる」
鳳からの言葉を跡部へ伝えた忍足は、逆に笑い飛ばされた。
「…まぁ、跡部やったら帰宅は車やし問題あらへんか…」
強気な跡部に忍足は、少しだけ安堵の色を浮かべる。


「そんなことがあったのか…しかし、何のためだろう…？」
話を聞いた幸村は柳へと改めて顔を向けた。
「始めは大会出場校への嫌がらせかとも思ったが、調べているうちに予選落ちの学校や高校生も狙われていることがわかった」
「それって…」
「無差別だな。だが、ある程度の実力がある者が標的にされている」
淡々と柳は語る。
「充分注意しろよ、精市」
「蓮二もね」


「今日は歩いて帰る」
「そうですか。では、帰り道はご注意下さいませ景吾様」
「ガキじゃねぇんだ。余計な心配はするな」
いつものように迎えに来ていた運転手に跡部景吾はそう伝えた。