「不二…なぜ君がここに？」
幸村と七星が駅構内へ向かった途中で振り向いた先には、不二周助がいた。
「ちょっと姉の買い物を頼まれてね。…七星ちゃんはどうして…？」
「それは…」
「うちの部員への出張囲碁指導だ」
七星への質問をさえぎるように幸村が代わって答えた。
「へぇ…そうなんだ。七星ちゃんらしいけど…」
微笑ましく七星を見つめながらもチロリと牽制するように幸村へも視線を飛ばした。
「用事が済んだなら、僕も帰るところだし一緒に帰ろう？送るよ」
「送りは俺がするから心配には及ばないよ」
幸村も不二の牽制など目もくれない。

「ねぇ、箱根駅伝でも先導の白バイは東京と神奈川の境では潔く選手を引き渡してるよ」
にっこりと笑い、不二は新春恒例のスポーツ行事を引き合いに出した。
「…言うな。了解、今回はおとなしく引き渡そう」
不二の言葉に幸村は小気味よく笑った。


「いいかい？ もしまた立海へ囲碁指導で行くなら一人では行かないこと」
「あ、はいごめんなさい」
今度は不二に詫びる。

（過保護過ぎだわ…）
　
帰りの車内、吊り革に掴まりながらため息と一緒に窓の外を見る。ちょうど鉄橋を渡り始めたところで、下は県境の川だ。そうして見る間に線路はビルの街へと向かう。

東京に入った。



fin.