「ああ、そうだな。トラウトを狙おう」
手塚もそう言うと寒バヤ用の竿をしまい、フライ用の支度を始めた。

「トラウトって？」
「ニジマスなどのサケ科の仲間のことだ」
「へぇ…見てもいい？ これは綺麗だね。何て言うの？」
興味津々と言う顔つきで、幸村はフライ釣りの支度を始めた跡部の道具箱をのぞき込んだ。

「擬似餌だよ。虫に似せて作られた釣り針だ。これを水面に浮かせて水の流れに乗せ、あたかも虫が水面にいるかのように魚に思わせる釣りだ。フライフィッシングと言うんだがな」
「なるほど…じゃ生き餌に比べたら手軽だな」
跡部の説明に幸村は、手にした針をしげしげと眺めた。

「それがそうでもねぇんだ。ただ浮かして流せばいいってもんじゃねぇ。水面に落ちた虫は動くだろ？ だからそれなりにアクションを加えてやらなきゃ魚は食いつかねぇんだよ」

「ああ、そうだな。擬似なんだから魚を騙さなきゃならないわけだ」
妙に感心したように幸村は、もう一度手のひらで針を転がした。

「そうだ跡部。トラウトが釣れたら塩焼きにして貰ってもいいかな？」
「そんなの、調理係に言ってくれ」
フライの準備が出来た跡部は幸村の言葉にただ笑った。