『釣りロマン』


（おかしい…いつの間にこんなことになっちまったんだ…？）

冷たい北風が吹き抜ける中、河原に立ち渓流竿を手に跡部景吾は考えた。

（始めは俺と手塚の二人だったんだよな…）

「どう？ 釣れそう？」
何やら戸惑う跡部の後ろから、ほっそりとした姿に似合いな優しげな声をかける人物が近づいて来た。

「幸村か…ああ大丈夫だ。てめぇの分くらい余裕で釣れるぜ」
そのひと言がきっかけになったのか、跡部の竿にアタリが来た。

「ヒット！」
一気に竿を立て引き上げる。
「ヒット！」
跡部より少し下流からも声が上がる。

「チッ、手塚にもかかりやがっったか」
釣針から外した魚を幸村に渡しながら、跡部はつぶやいた。

「跡部さーん、手塚部長にもかかりましたよ。これでまた並びましたね」
手塚から同じように魚を受け取りながら、ニヤニヤと越前が笑った。

（うるせぇ！ 俺は純粋に釣りを楽しみに来たんだ！ それをてめぇらが…）

頭の中で怒鳴り散らしただけでため息が出る。

「河村先輩、忍足さん。これ刺身じゃ無理っすかね？」