「はぁーっ。ダメだ。かと言ってバネさん達におごるのはシャクだし…シャク…シャク…」
さらにぶつぶつ言いながらぐるぐるとその場を周回する。Ｆ１並だ。

やがて何か思いついたのか、不意に立ち止まり
「シャックリとシャッフルはソックリ」
と、運悪くちょうどその男の横を通り合わせた財前に、話しかけると言うよりは、ネタ振りをした。

「…はぁ？ ちゃうと思いますけど…？ 」
財前は財前で思い切り眉を寄せ『こいつ何やねん、ど突き倒したろか』と言う顔を見せた。

「…はぁ、やっぱりダメか。こんな時もあの子なら笑ってくれるのにな…」
その男の脳裏に、とある少女の笑顔が浮かんだ。悩んでいた顔に照れたような表情がにじむ。

触らぬ神に祟りなし。チラリと半ば軽蔑したような視線を男に向けると、財前はその場からさっさと立ち去りかけたが…
「あ、ちょっと。中華まんって１個いくらかな？ 」
また捕まった。

「…知らへんわ。今日、初めて横浜に来た人間に聞かんといてくれます？ 」
またジロリと睨む。
「へぇ…俺も横浜は初めてかも…」
考え込みながら、財前に並んでついて来る。
「…ついて来んでくれます？ 」
男から離れて歩く。