いくつも並ぶ土産物屋を覗きながら財前は、祖母や母達へ何を買うか迷ったが、無難なところで赤レンガのデザインされた缶入りの紅茶と、お茶受け用に名物の菓子を選んだ。
（小遣いもろて来てますから一応は誠意見せて買いましたけど、こないなとこで妥協してもらいましょ）

手提げ袋に入った土産物を下げて赤レンガを出た時には、一度別れた連中との合流時間まで後30分となっていた。

（こっから中華街まで30分で行けるやろか…）
歩き出しながら、頭の中で考えたが微妙だった。

（まぁ、帰りの新幹線やないんやし、ピッタリに着いたかて部長達がおる店探さなならんわけやから…適当でかましませんやろ…）

と、結論を出し、さして急ぐ風でもなく港の景色を見ながらゆるやかな歩幅で中華街へと向かい始めた。



「浮かばない…何も浮かばない。冴えがない、キレがない、コクがない……スランプなのか、これがスランプなのか？ 」

港が間近に見える公園で、かなり目立つ風貌(ふうぼう)の男が、さっきから同じ場所を行ったり来たりしている。しかもぶつぶつと独り言を言いながらだから、過ぎ行く人は皆よけて通る。ほとんどは無視だが、中にはチラチラ、まれにジロジロと見て行く。