『光とヒカル』


（…と、あれやな…）
土産物屋で貰った手元の観光案内から目を上げると、財前光は視界に入った目的の建物に小さく息を吐いた。古びた赤色レンガの建物に真夏の青空が実によく映える。そして建物の奥には港が広がるのが見える。

（けど、何でうちのおかん連中はレンガの建物が好きなんやろ…）

財前はテニス部の部長白石と、同じく上級生忍足謙也の二人と共に夏休みを利用して二泊三日の予定で東京にやって来ている最中である。

他の二人は謙也の従兄弟、氷帝学園に通う忍足侑士や氷帝テニス部のメンバー達と今頃は中華街を練り歩いているはずだ。

財前がはるばるとやって来た港町横浜で、他の連中と別行動をするにはわけがある。


（この角度やろか…あかんな…全景が入らへんやん。重なるようにして撮るか…一棟ずつ撮るか…）
携帯のカメラをズームにして遠景、近景と自分も建物の右へ左へと移動しながら様々な角度からその赤レンガの建物を幾枚も写真に収めた。祖母達から『横浜の赤レンガ倉庫の写真を撮って来てくれ』と頼まれているからだ。

（ま、こんだけ撮りゃええでしょ）
携帯のデータを見直し、それなりな被写体に満足すると、今度は土産物を物色するため建物に足を向けた。