さすがの不二も作曲家はわかるが、曲の方はさっぱりだ。
「君、クラシック詳しいんだ？ 意外だよ」
驚きと感心の入り交じった表情で忍足を見る。

「有名な曲や。短い曲やけど、めっちゃ綺麗なんよ。聴けば不二かてわかるんやないかな。映画でも使われたし、確かスケートでも使われたんやなかったかな」

朝露に光る草に、差し込んで来た朝日が反射している。それを見ながら忍足は考え込むように言った。

「…跡部は携帯を２台持っとるん。プライベート用と普通にどの相手とも連絡取るやつの…」
「ふぅん…でもそれが…？ 」
何？ という感じで不二が聞いた。遠く山の方からうぐいすの声が聴こえる。

「へぇ…高原だとこの時期でもうぐいすが鳴くんだね」

谷渡りと呼ばれるうぐいす独特の長いさえずりに、二人は聴き入るようにしばし沈黙する。

「…で？ 」
うぐいすの独唱が終わると、不二は話の先を促した。

「あ…つまりな、目覚ましの曲はプライベートの携帯で使われてん。普段はバイブレーション設定やけど跡部が一人ん時は解除されて曲が鳴るん」

「へぇ…と言うことは、君はいつも跡部と一緒にいるんだね。樺地と競争してるの？」
「たまたまやって！ 」