『目覚めの音』


「げは…ひっ…ふはっ」

ああコンチクショウ！ 何でこんな日に限って寝坊しちまうんだ、俺。

大きなバッグを肩に、必死に走る少年が約一名。息も絶え絶えで、見ていて気の毒になるほどだ。

「お先」

「…あ…？ 」
不意に誰かが追い抜きざまに声をかけて来た。下を向いて息を荒げて走っていた少年は、顔を上げた。

追い抜いた誰かは、小生意気な表情で、しかも余裕ありな走りでこちらを見るとニヤリと笑った。

「そんなにバテた走りして、まだまだだね切原さん」

「…てめっ、越前！ 」
ムカつきの導火線に火がついた。

「待ちやがれ！ てめぇこそ遅刻じゃねーか！ 人のこと言えんのかよっ！ 潰して踏むぜっ！ 」
意地で越前に追いつき並んだ。

「さぁね、遅刻かどうかなんて、着いてみなきゃわかんないでしょ」


「遅刻だ越前。明らかに遅刻だ。どう言い逃れようが、遅刻だ、越前」
「げっ…部長…」
しつこいほど遅刻を連呼し、いつもの無表情で愛想のない顔で青学の部長手塚が言った。

「へっ！ ザマミロだ」
「お前もだよ、赤也」
「げっ…幸村部長～…」
越前に気を取られ、自分の立場を忘れた。消え入るような声で声の主、立海大の部長幸村を切原はそっと見た。