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氷帝編〜Episode1〜*
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感慨に浸るように、旧友忍足からの電話に跡部が相槌を打った。その指先には一枚のチケットが添えられている。 世界に名の知れた歌劇場の来日公演チケットだ。
『あれから何年経ってしもたんかな。ついこないだみたいな感じやねんけどな』
「そうだな…あいつは俺達が言ったように、音大へ行くものだと思っていたのに」
『あっさり留学してしもたからな』
当時を思い出したのか、忍足も懐かしそうに笑った。
「オペラの本場へ単身で、よくやったぜ」
深々とソファに身を沈めたまま、跡部は見つめていたチケットをサイドテーブルへ置くと、代わりにブランデーグラスを持ち上げた。
「あいつに乾杯、だな」
『そやな。ほな、明日はどないするん? 跡部のことやから、公演終了後に彼女を招待するくらい考えとるやろ?』
「当たり前だ。まず公演中は毎日、楽屋に真紅の薔薇を100本届ける。明日は終了後にディナーだ。ただ、初日だし翌日のこともあるから軽めにだがな」
跡部は考えながらスケジュールを告げた。
『相変わらずやな跡部は』
「何がだ」
『エスコートが上手い、いうことやね』
「ハッ、野郎に褒められても嬉しくもねぇよ」
跡部はそう軽口を叩くと電話を切った。
来日公演のかかっている劇場には魔笛の大きな文字が掲(かか)げられている。
外国の出演者名が連なる中に、見覚えのある名前がある。
野崎明日香。
あの日歌った夜の女王のアリア。驚くクラスメイト達と音楽室に響いた拍手。
あの時の拍手は何倍もの反響となって劇場内に沸き起こる。跡部も忍足も惜しみない拍手を送る。
「あの時は勇気をありがとう」
私は久し振りに会った二人に深くお辞儀をした。
「勇気があったんは野崎やで」
「え…」
「そうだな。俺達は後押しをしたかもしれねぇが、一歩を踏み出したのはお前自身だからな」
お辞儀から顔を上げると、改めてにこやかに微笑む二人を視界に入れた。
「人生にそうチャンスは巡って来ねぇ。だが、お前は立ち向かって行った。声ひとつで世界に出たんだ」
「立派やで。ほんま、おめでとうさん」
忍足くんの差し出したシャンパンのグラスが、私のグラスにぶつかると軽やかな音が響いた。
あの頃よりずっと大人で、ずっと素敵になった二人が笑ってくれた。
アリア、それを歌おうとしただけだった私がここにいる。
道はある。
これからも歩いて行く。
そして私の声は、いつもこの二人に届くように歌う…。
たったひとつの音を…。
fin.