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氷帝編〜Episode1〜*
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『アリア』
あの頃…
自分がいやだった。
嫌いだった。
何もかもがコンプレックスだった。
放課後、部活や委員会以外の生徒は帰ってしまい人声も途絶えた校舎に、一人歩く自分の足音だけが重くついて来る。
校庭側の窓からは、運動部の掛け声や打ったり蹴ったりするボールの音が今一人しかいない自分の場所と比べ、賑(にぎ)やかさと楽しさも交えて聞こえて来る。とりわけテニスボールからは華やかさを感じる。
「きゃ~跡部様~」
「素敵ぃーっ」
「こっち向いて~」
私はチラリとテニスコートを見下ろしたけれど、すぐ足元へ視線を戻し先を急いだ。
ちょっとだけ跡部くんが見えた。
「はぁ、面倒だな…何で歌のテストなんかあるんだろ」
ため息混じりに私は音楽室のドアを開けた。ここなら思い切り声を出して歌える。
別に歌も音楽も好きじゃないけど、課題練習を家でやるのは気恥ずかしい。
音楽の榊先生は常に『朗々と気高く美しく歌え』と言う。自分の部屋で『コソコソと小さく誰にもわからないように歌う』とは雲泥の差だ。
「え…と、どれを歌うと点が高いんだっけ…」他のクラスから流れてくる噂だと、選んだ曲でつく点数が違うらしい。難曲を選べば選ぶほど、音楽の点が上がるなら打算で選ぶまでのこと。
「あれ、野崎やん。どないしたん?」
「え…! 忍足くんこそ…」
不意に音楽室のドアを開けて、同じクラスの忍足くんが入って来た。クラスは同じだけどろくに話したこともない。跡部くんと女子達の人気を二分するテニス部の憧れ男子だ。その忍足くんと二人きりで、教室という限られた空間で、一人の邪魔もなく、気さくに話せるなんて…。わけもなくドキドキする。
「俺は忘れ物や。六時間目音楽やったろ? うっかりペンケース忘れてん」
そう言いながら忍足くんは、自分がいた席の机の中を覗き込んだ。
「野崎は何しとん?」
ペンケースを手に取ると、忍足くんは机から身体を起こして私を見た。
「…課題曲の練習をしようかと…」
私は音楽の教科書を忍足くんに見えるように手元から持ち上げた。その時、自分でも声が震えて頬が赤くなるのがわかった。
「課題…? ああ、歌のテストのな? そんなん適当でええのに真面目やな、野崎は」
忍足くんが笑った。