トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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遠吠えが先ほどより近くで聞こえる。
「ねえ」
「なんだ? 大丈夫か?」
こんな命懸けの時だというのに、こちらを気遣いチラリと視線をくれた。小学生なのに本当によくできた子だと思った。
「気のせいかな、遠吠えが聞こえるんだ」
「うん?」
彼もグリズリーに攻撃を繰り出しつつも耳をすます。
「……聞こえる。何か近づいて来てやがる」
跡部の横顔に少しだけ不安そうな影が浮かんだ。
コヨーテか狼かハイエナか、北米やカナダならどれもいるだろう。ただ、グリズリーの生活圏にあいつらの生活圏が重なるのだろうか。そこがわからない。
自分の世界とこちらの世界。同じようで根本的に違うから。
(考えても始まらないか)
とにかく、何かがこちらに向かって来ているのは事実だ。
と思った矢先、がさがさと茂みの中から遠吠えの正体が姿を現した。
「狼?」
「……だな」
姿を見せたのは一頭だけではなかった。いつの間にかグリズリーと跡部と私は狼の集団にぐるりと囲まれていた。跡部と私、そしてグリズリーにも緊張が走る。狼に囲まれたせいか、グリズリーも動きを止めて新たな敵に警戒心が沸いたようだ。
跡部がスッと私に近寄ると、手をぎゅっと握ってきた。
「狼って集団で狩りをするんだろ?」
「うん、そう。目標が群れにいるならその中の一頭だけ群れから離して、ずっと追い続けて体力消耗させて仕留めるパターンだね」
「なら絶対に俺様から離れるなよ」
グリズリーと狼に油断のない視線を向けながら、極上のセリフを吐いてくれた。
(う、わー。凄いジェントルマンだな、これで十歳なのか。未来恐るべし)