トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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「ありがとう」
そう言えば彼も照れたのか、パッと手を離すと横を向いてしまった。
「……ちっ! 動き出したぜ、来る!」
彼が横を向いた先にグリズリーベアの姿があった。
「走らないで、歩こう」
今度は私が彼の腕を掴み引く。
歩きながらも必死に考える。
何か打開策はないかと。
自分の世界でグリズリーベアと遭遇したなら、まず助かる道はない。
ほぼ絶望的である。
最大で身長約3~4メートル、体重約450キロにもなる。後ろから着いて来る奴もかなり大きい。そんなものと戦うなんて無理だ。
だが、ここはテニスの世界だ。
その無理が利く。
しかも一緒にいるのは将来有望な成長株、跡部景吾だ。
もっと無理が利く。
しかし、今はラケットもボールもない。どうすれば……
「おい」
小声で彼が私の手を数度引いた。
「詰めて来てやがる」
彼の視線がスッと後ろに下がり、眉が険しく寄る。
私も彼に倣(なら)いそっと後ろを見た。
グリズリーとの間合いがいつの間にか10メートル程になっている。
歩いている一本道の先に出口があるかもわからない。
「ねえ」
「なんだ」
「野球は出来る?」
「あ? スポーツなら何でもこなすぜ」
「それはよかった」
跡部景吾なら出来ないとは言わないだろうと思ったが、一応聞いておく。
「熊の、というか動物全般の弱点て鼻らしいんだよね」
「鼻、だと?」
「そう、鼻っ柱を叩かれると相当痛いみたい」
「……それで野球、か!」
全部を説明することなく彼は理解してくれた。
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