トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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チロリと彼は私を見上げた。
看板を前にした私たちの背後の木立から、何やら獣臭い気配がするのだ。
「どうも、この注意事項に該当する追っ手のほうかもしれないね」
「やっぱりそう思うか?」
「思うね」
「どうする? 注意書にはまず走るな、とあるが」
「……木に登って難を逃れた人がいる」
「じゃあ登ろう、お前は登れるか?」
「無理。グリズリーも登って追いかけて来る。逃れた人は登山家で登った距離は25メートル。さすがのグリズリーも巨体ゆえにそこまでは登れなかったらしい」
「それじゃ……」
彼の顔が少し歪んだ。
「君なら登れるだろう。看板の後ろの木だって30メートルくらいありそうだ」
「な!」
彼の目が大きく見開かれ、私を驚きの眼(まなこ)で見つめて来た。
「時間は私が稼ぐ。その間に君は登れ。上を目指しひたすら登れ、決して下を見るな」
向こう側からこちらを窺う気配が次第に濃くなってくるのがわかる。
周りが針葉樹だらけでよかった。
子どもとはいえ跡部景吾なら、もうテニスをしていて並の子どもよりは鍛えてあるだろう。
その筋力と体力があれば無事逃げおおせるはずだ。
木の頂上付近で数時間過ごすはめにはなるだろうが……。
「ダメだ!」
ビックリした。
彼の手が私の腕を凄い力で掴んだのだ。
「女を守るのは男の仕事だ! たとえ相手が獰猛なグリズリーベアでも俺様がお前を盾にして逃げるわけねえだろう!」
その真剣な眼差しに思わず微笑んでしまった。素直に嬉しいと感じたからだ。