トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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「そう、なんだ」
幸村くんが少し目を見開いた。
初対面の、と言いつつ言葉の影で彼も私を警戒している。
自分も聞かれたくはないし、踏み込まれたくもない。
そう言っている目だ。
それがほんのわずかだけど、ほどけた、と感じた。
その時バタバタと廊下を走る足音が近づき、いささか乱暴にドアがノックされたと思ったら、返事も待たずにそれはいきなり横に開いた。
「幸村部長、すんません! 俺、携帯ここに忘れちまったみたいで」
息を切らした切原くんが、焦ったように一気にまくし立てる。
「携帯? 赤也の?」
また幸村くんは眉を寄せたけれど、素早く室内に目を走らせた。
「……ない、ね」
「いや、でもっ……」
幸村くんの素っ気ない返事に戸惑う切原くんが、気の毒に思えてしまった。
私の知る切原くんは何事も一生懸命で裏表のない一途な人だ。
人懐こい笑顔が浮かぶ。
「ねえ、幸村くん。この人困ってるし、試しに幸村くんの携帯から彼の携帯にかけてあげたらどうかな? この部屋で呼び出し音がすればそれで済むことだしさ」
「あっ! いいっスね、それ。部長、すんませんがお願いします!」
私にあの懐かしい微笑みを向けた後、切原くんは直立不動から勢いよく腰を折った。
「……仕方ないね」
幸村くんは渋々といった感じで、緩慢に自分の携帯を手にすると画面に指先を滑らせた。
ほどなくして呼び出し音が鳴り始めた。
しかし、なぜか同じ音が重なって聞こえる。
「え?」
三人が顔を見合わせた。
「二台?」
「まさか!」
「え、あっ!」
その音は、私の膝上の鞄と、幸村くんのベッドの下の二ヶ所で同時に鳴り続けていた。