トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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「ああ、そうだ。もしよかったらお菓子があるんで貰ってくれるかな? 俺、食べないから」
そう言う幸村くんの肩越しに、ベッド脇にあるサイドテーブルに置かれたケーキの箱が見えた。
あの箱はさっき丸井くんが持っていたものだ。
すれ違った時の甘い香りが脳裏をかすめる。
「ありがとう。頂いていいものなら頂くよ。今でもいい?」
自分用にあてがわれた病室に入りたくないのもあり、私は幸村くんにぎこちなく笑いかけた。
「もちろん構わないよ。どうぞ」
「それなら一ノ瀬さん、部屋に戻ったらナースコールちょうだい。検温と説明するから」
わかりました、と返事をすれば看護師さんは足早に廊下から立ち去って行った。
「どうぞ」
私が立ち止まっていたせいか、幸村くんは入り口を広く開けもう一度そう言った。
「お邪魔します」
小さく頭を下げ、病室に入ると勧められた見舞い客用のパイプ椅子に腰を下ろした。
「入院って、体調でも崩したのかい?」
見た目ケガはなさそうだし、とつけ加え、ケーキの箱を開けもせずこちらに押してよこした。
「……検査入院。ケーキ、嫌いなの?」
「検査? うん、まあ。好きではないかな」
私の答えに幾分眉を寄せ、箱にはチラリと視線を向けただけですぐに戻された。
「検査って……あ、初対面の人間に色々探られたら嫌な感じするね」
ごめん、とつぶやいた幸村くんは居住まいを正し
「俺は幸村精市。この近くの立海大附属高校の二年。この病院のお世話になるのは二度目になる。もっとも、俺も検査やら仮退院やらで細かい出入りは数知れずだけど」
そう言う幸村くんは、違う次元の幸村くんよりずっと大人びた印象だけど、根本は同じなのかもしれない。
笑顔の儚さと、それとは裏腹な瞳の奥の燃えたぎる闘志。
ただ、瞳の奥はこの次元の幸村くんには空虚しかない。
何もかもあきらめた、生ける屍。
「私は一ノ瀬浩美。県立の高校二年です。この病院は何度目かな。三月にどうにか退院して、今まで順調に来てるから念のための検査だと思いたい」
私は自分の世界での病歴を語った。
入院設定されたとはいえ、さすがに嘘でごまかしきれるとは思えない。
相手は幸村精市だ。