トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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念のため、見舞い客を装い受付で幸村くんのいる病室を聞いた。
やはりと言おうか、残念ながら幸村くんはここにいた。
「どうしよう……」
教えられた病室の前に来たものの、『幸村精市』のネームプレートを見たとたん、また足が止まる。
幸村精市、今の彼は私を知らない。
それをどう説明する?
一旦病室前を離れ、しばらく廊下の端にある休憩コーナーで考えをまとめていると、近くのエレベーターの扉が開き、中から懐かしい声が耳に響いた。
「幸村くん、今日は会ってくれっかな」
「会ってくれるといいんスけど……」
「そうですね……」
静かな口調で話す彼らに、思わず椅子から立ち上がってしまった。
ガムを噛んでいない丸井くんが私の横を通り過ぎる。
息が止まる。
「ケーキ、受け取ってくれっかな……」
甘い香りも一緒に通り過ぎる。
これは、なんだ?
私の鼓動が激しく騒ぎ出した。
よろけるようにして私は自分の身体を壁で支えた。
そのまま遠ざかる彼らの姿を一心不乱に凝視した。
初めて会った時の丸井くんは、私より背が低かった。
なのに、今すれ違った丸井くんは、私を追い抜いている。
「いや、彼だけじゃない……みんな少しずつ背が伸びて、大人びた顔つきになってる……」
愕然とした。
ここは過去なんかじゃない。
「未来、だ」
全身から血の気が引くのが自分でもわかった。
指先が冷えて震えてくる。
もうひとつの事実に、再び驚愕するしかなかったからだ。
未来なのに、彼らは私に気づきもしなかった。
正面からのあの距離で、何も気づくことはなかった。
ここは、私が出会ったテニスの世界とはまた違う、別なテニスの世界なんだ。
そして、別次元の未来の世界の幸村精市は……
「病気が、再発したんだ……」