トリップシリーズもので、いつものヒロインは全く登場しません。高校生ヒロインの冒険譚です。
パラレル・どっと・混む〜Episode1〜*
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幸村の表情がそのまま止まった。
「どうした、精市?」
幸村は、風が穏やかに吹き抜けるテラスをただ見つめ続けていた。
「あれ、部長。一ノ瀬さんと近江さんは? もう立海まんじゅう渡したんスか?」
切原が二人の姿を探し周囲を見回す中、少しだけ肩を揺らした幸村が答えた。
「もう、いない。帰った……」
「え……帰ったって……まさかもう……?」
切原の絶句が室内に広がる。
氷帝も青学も何も言えず立ち尽くす。
「そんな! 急すぎるっスよ! なんでっスか! 部長! なんでっ……」
「……何も渡せなかった。気をつけての声もかけられなかった。また会えたらいいねって、言いたかった……のに」
幸村がうつむけば、切原も唇を噛みしめ拳を握る。
「お、俺だってそっス! 挨拶くらいちゃんとしたかった……ス」
わずかの間の思い出が、夕暮れの淡い日差しのように差し込んでくる。
「でも、部長。あの人達らしいっスよ」
切原の言葉に幸村も顔を上げる。
「今の時間、4時44分スよ。こんな呪われたような時間にいつの間にか帰っちまうなんて、あの人達らしいっスよ!」
半泣きの切原が必死に笑おうとしながら言った。
浩美の残した携帯を握りしめながら。
「丸井先輩、腹減ったっス! 帰りどこか寄らないっスか?」
あれから数週間が経ち、何事もなかったかのように日々は過ぎていく。
「お、いいな! 俺もペコペコだぜ。よし! 今日はガッツリとラーメンにしね?」
「あ、もしかして新装開店の、あの店っスか?」
「もち! 食後にデザート一品付きって、チラシにそのクーポンがついてたんだぜ」
丸井が上着のポケットからクーポンを取り出し、ヒラヒラと振って見せた。
「うっしゃ! 行きましょーっ!」
丸井と切原が部室を出ると、ジャッカルとなぜか仁王までが続いて出て行った。
「仁王くんも、心配なのでしょうね、切原くんが」
ドアが閉められ相方の背中が見えなくなると、柳生がつぶやいた。
「そうだな、赤也はわざとらしいくらいに今までと同じようにしているがな」
「痛々しいよ。まあ、俺もそうだけどさ」
柳に対して冗談のように幸村も言うが、あの時、時空の向こうへ消え去る浩美の姿を見たのは、幸村一人だけだ。
他のメンバーは見ていないせいか、不意に現れて消えた二人にそれほどの固執はない様子だが、最後の微笑みを見た幸村と、携帯を交わした切原にはいつまでも深い感慨が残る。