横浜物語
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「精市は、我々ですら想像を絶するような努力と気力でリハビリをこなして回復したのだ」
港の方向へ目線を上げると、真田は静かに語り始めた。
「俺は鍛練のため、毎朝四時に起きる」
「四時っ……ですか!?」
心底驚いた、という顔で七星は真田を見た。
夏はいいが、冬は厳しい、という考えが瞬間七星の脳裏を横切った。
「で、その鍛練に退院後の精市をつき合わせたわけだが、精市には五時起きで、マラソンと竹刀の素振りをさせた」
「毎日……ですか?」
「ああ。ひと言の弱音も吐かずにな」
朝もやの中、並んで走る二人の息遣いが聞こえたような気がした。
「登校出来るまでに回復しても、しばらくは続けていたな。それに、テニス部の朝練でもじっと基礎メニューを繰り返していた」
真田も幸村のリハビリ風景を思い出したのか、険しい顔つきが少しだけ和らいだ。
「……本当に努力家なんですね」
「ああ、頭が下がる」
夏の日差しが足元を照り返す。自分も動かない足に涙した日があった。もう歩くことも出来ないのかと、絶望しかけた日もあった。
何も感じなくなっていた自分の足に、日差しの暖かさを感じたのはいつだったろう。
生きていてよかった、と思えたのはいつだったろう……。
見上げた青空に白い雲。
自然に涙がこぼれてしまい、七星はあわててバッグからハンカチを取り出すと、汗を拭くふりをして目頭をぬぐった。
「現在地か? うむ……」
いつの間にか真田は誰かと携帯で話している。
「……ベンチだということしかわからん」
辺りをぐるっと見渡すと、ぶっきらぼうに真田は答えた。