東京物語*
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コート中を縦横無尽に駆けめぐり、巧みにボールを拾い叩き返す謙也の姿、というよりは七星が見つめているのは足だ。
ただひたすらに忍足謙也の脚力に目を奪われている、そう乾は感じた。
(七星ちゃん……)
乾はそっとノートを閉じた。
「七星……」
「なに見てはりますの」
「……え……?」
声をかけようとした乾と、フェンスを握りしめていた七星が同時に顔を向けた。
試合をしていた財前が、いつの間にか七星の前にいる。
「さっきからずーっと謙也さんのこと見とるみたいやけど、アンタ謙也さんのファン?」
「……けん、やさん? ファン?」
目をしばたたかせると、七星の視線はコートと財前を往復し困ったように財前を見据えて止まった。
「いけなかったかい?」
乾の声にハッとして七星が振り返り、一瞬の間をおいて財前もそれを追った。
「俺たちは他校の使いで来てるだけでね。テニスの試合をしていたのでつい覗いてしまっただけなんだ。失礼したなら謝るよ」
「乾先輩……あ、いえ! 謝るならあたしです!」
表玄関に行くはずが、吸い込まれるようにコートに来てしまった自分が悪い、と勢いよく財前に頭を下げた。
「あー、まあ、悪気もないようやし、ええのんとちゃいますか」
少し前までギラついた眼差しが、懸命に謝る七星にいくぶん柔らかいものに変わった。
「俺らもたまたま立ち寄ったみたいなもんやし、テニス好きなら飽きるまで見てったらええっすわ」
「財前どこやー! 次ダブルスやでー」
大きな声と足音が近づいて来た。