乾汁の効用~密やかな午後~
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「さすが手塚だな」
まったく無表情で芝生…いや乾汁を飲み切った手塚に感心の声を乾はかけた。
「………」
「…手塚?」
紙カップを手にしたまま手塚は動かない。
(…効きすぎたか…?)
何が効くのかは乾以外わからないが、微動だにしない手塚に乾は近寄ると、肩に手を置きゆすった。
「おい手塚。大丈夫か?」
「……フ、誰が手塚だ」
「…え」
固まっていた身体がゆっくりとほぐれるように動くと、手塚が優雅に振り向いた。
「この俺様と手塚を間違えるたぁ、てめぇの目はどこについてやがる」
そう言って髪をかき上げる仕草はいかにも跡部がやりそうだが、どこをどう見ても手塚である。
「手…跡部…?」
「乾、グラウンド100周と言ったはずだ。さっさと行って来い」
戸惑う乾の後ろから跡部の声で手塚の命令が下る。
「跡…手塚…か」
「当たり前だ。何を…」
自分を振り返った乾の肩越しに自分の姿が見えた時、手塚の…いや跡部の眉が上がった。
「…手塚は俺のはずだ…」
言い回しは手塚だが、つぶやく声は跡部だ。
「あーん? 何を言って…」
乾の陰から手塚の姿が現われたが、先ほどのように動かなくなってしまった。
「俺様は…ここにいるぜ…?」
自分の姿を見た手塚な跡部の目が見開かれ、あわてて目をこすろうとしたのか持ち上げた指が眼鏡のレンズにぶつかった。
「でっ…畜生、何だこれ…」
手塚な跡部は自分の目の周りをまさぐると勢いよく眼鏡を外した。
「…げ…」
眼鏡を外した手塚な跡部は何度もまばたきを繰り返し目をこする。
「…見えねぇ…何でだ…?」
空を見て足元を見て、目をこすり、再び景色を眺めて眉を寄せて腕を組んだ。
「……俺は近視だ」
「………」
跡部な手塚に言われ、一瞬ほうけた表情をした手塚な跡部だが、手にした眼鏡をしげしげと観察するようにいじってからそれをかけた。
「…見える…そうか、これが近視ってやつか…」
感心したように手塚な跡部は、もう一度周囲をそのレンズ越しに見渡した。