125キロの加速 ナツのオトメ1*
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「7五歩」
真田さんの声で、我に還るとあわてて打った。
「6四歩」
結局勝負は、またあたしが勝った。
「強いな…」
感心したように言われてしまった。ちょっと照れ臭い。
「じゃ、後は頼む」
病院の前で、急に真田さんに言われた。
「真田さんは見舞われないのですか?」
尋ねるあたしに
「お前一人の方が、幸村も喜ぶ」
それだけ言うと、さっさと部活をするために、立海大のある方へ行ってしまった。
幸村さんの病室をノックするけれど、返事がない。
(まさかまたお休み中…?)
「失礼します…」
遠慮しつつドアを開けたら、部屋は空っぽ…。
(検査かな…)
あたしはそう思って、ドアを閉め部屋に入った。
「持って来ててよかった…」
あたしは、カバンから『カラマーゾフの兄弟』を取り出すと、ベッド脇の椅子に座って読み始めた…。
「………」
時間を有効に使いたかったけど、それは別な本の時の話だ。カラマーゾフの兄弟は、あたしに『退屈』と『睡魔』しか与えてはくれなかった…。
「七星さん…?」
部屋に戻った幸村は、最初にこの部屋で出会った時の、小さな驚きをまた味わえて喜んだ。
「七星さんは、お疲れなのかな…」
くす…と笑いながら、いつの間にかベッドにもたれて眠り込んでいる、七星の髪を優しく撫でた。
幸村は、窓から空を見上げた。くっきりとした夏の空色…立ち上がる入道雲。
鮮やかで眩しい…。
七星に視線を戻し、柔らかな頬にそっと指を滑らせる…。
地上の空がここにある…。
初めて見た時、健康そうな女の子で…ひと際目を惹いた…。
でも、それは外見で、夢を取り上げられ、挫折を知り、絶望を乗り越え…この小さな体で自分と同じように、のたうち、苦しみ、泣いて…どれだけの慟哭の夜を過ごしたのだろう…。
「ごっ…ごめんなさい!」
気がついた七星が、あわてて跳ね起きた。
あわてる七星を微笑ましく見つめると、ふと幸村はつぶやいた。
「君は…どれだけの試練を乗り越えたのかな…」
「─まだです」
幸村の問いに、顔を上げた七星は笑顔で答えた。
「試練は越えてこそ試練です。あたしはまだ越えていません」
幸村の心に衝撃が走った気がした。
この空を自分一人だけのものにしたい─