「どうした忍足。今日は随分おとなしいじゃないか。昨日のお仕置きが効いたみたいだなぁ？」

翌日の氷帝学園男子テニス部コートで愉しげに部長の跡部景吾が、忍足侑士に言った。

「跡部ぇ、お仕置きはないやろ～」
しかし、ガックリしている様子は否めない。
（ホンマにええ子やってん。おモロイし、飽きひんし、何より可愛えし…滅多にいてへんええ子やったのに…惜しいことしたわ）
深くため息を吐いて、肩を落とすと
「侑士、お客さんだよ」
と向日岳人が声をかけてきた。

「あ～誰やん？」
気だるそうに返事をする。
「…青学の子」
向日のそのひと言でガタッと音をたててベンチを蹴ると、一目散にフェンスの外を目指して、忍足侑士は姿を消した。

あまりの勢いの凄さに、目を丸くした向日岳人だが
「嘘は言ってないぜ。侑士」
と、くすくす笑う。


「七星ちゃん！来てくれたん？俺、なんぼでも謝るから…！」
面会人がいる場所に駆けつけると、『お客さん』が誰かも確かめず叫んだ。

「七星じゃなくて悪いね、忍足さん」
帽子のつばを片手でわずかに上げるとお客の越前リョーマは言った。

「えっ…越前っ!?」
なっ…何でや…と言いたかったが、声にならず、ぱくぱくと口を動かし、越前を指差した。

「忍足さん、昨日は七星が世話になったね」
ニヤ…と眼光も鋭く口の端で越前が笑う。
「な………」
（せ…世話って…七星ちゃんは…手塚やないの？）
「次に氷帝と試合があったら…２度と七星に手出し出来ないようにしてやるよ」

それだけ言うと、越前はさっさと忍足から離れた。

唖然として、忍足が越前の背中を見送ると
「あれ…越前に先越されたみたいだね」
くす…と軽く笑う声に、振り向かされた。

「…不二…？」
（何でや…何で 越前に続いて不二まで来るん？）
「まさか…不二も…」
その先を口ごもる忍足に

「そう…僕の七星に手を出そうなんて失礼だよ」

かすかに目を開き、不二が笑いを控えて言った。

（不二もかいな～っ！あかん！あかん！ホンマにあかん！手塚に幸村に越前に不二やと～？七星ちゃんモテ過ぎや！余計あきらめられんやないの～！）

唖然から呆然、そして愕然に変わり、ただ立ち尽くす忍足に
「いいかな…また同じ愚行をすると、君に明日はないよ」