125キロの加速 ナツのオトメ1*
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『ありがとう』
その言葉に手塚はなぜか安堵した…。
断わる時の常套句…
『ごめんなさい』ではなかったから…。
「待つよ…」
手塚の口から、自分でも予期せぬ言葉が出た。
「…え…?」
「いつまでも待つから…。君の心が育つまで、俺は待つ」
机に半分腰かけた状態で、手塚は七星に言った。
「………」
七星は少しだけ困った顔をすると、もう一度手塚に深々とお辞儀をした。
夕暮れの涼やかな風が、生徒会室のカーテンと、七星の髪を揺らして通り過ぎた。
夏休みが始まった─
依然として『カラマーゾフ』は、あたしを楽しませてくれない。
(上巻の終わり…ってどの辺なのよ)
ひと息つくと、あたしは本を閉じた。
真田さんからメールが来た。
(どんな手かな…)
携帯を開けて、驚いた。
真田さんが、初めて文章を送って来たのだ。
《幸村の調子が悪い。見舞ってやってくれないか?》
あたしはすぐに出かける支度をした。
(そう言えば幸村さんからしばらくメール来てなかった…。あたし、バカだ。あんなにきっちりメールくれる人が、一週間も音沙汰ないのに何とも思わないなんて…)
真田さんと待ち合わせて、幸村さんのいる病院に向かった。
「夏はいつも調子を崩す。暑いからな…。病人にはこたえるようだ」
病院の廊下を歩きながら、ポツリと真田さんは言った。
『幸村精市』と名札のある病室の扉をノックする。
返事はない─
真田さんが扉を開ける。
声をかけようとしたら…
幸村さんは眠っていた。
「起こすのは…悪いな…」
真田さんは少しためらうと、あたしに言った。
「任せていいか。今日はテニス部に出ないとまずいんだ」
「あ、大丈夫です。起きるまで傍にいますから」
あたしはあわてて言った。
「じゃ、よろしく頼むな」
真田さんも、あわてて病室を後にした。
お見舞いのお花を生け替えるとサイドテーブルに置いた。
ベッドの脇のイスに腰を下ろして、幸村さんの顔を見た。
(まともに幸村さんの顔見るのって…もしかして初めてかも…)
色白の肌が…いつにも増して蒼白く見える…。
いつもあたしを見つめてくれた綺麗な瞳も…今は長い睫毛に閉じられて…
(う~何か見とれちゃうよ~)
あたしは焦って幸村さんから視線を外した。
窓から空が見える。
四角に切り取られた空が…