125キロの加速 ナツのオトメ1*
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「─え…?」
手塚は目を見張った。
会長用…すなわち自分の机で七星が…腕を枕に寝ている…。
そっと近づく。
鼓動が…少し早くなる…。練習でもこんなに早くならないのに…。
広げられたままの本が、『カラマーゾフの兄弟』とわかると、手塚の顔に優しい笑みが浮かぶ。
七星の肩から机にかかる柔らかな髪に、そっと手を伸ばした…。
「…アリョーシャ…」
七星のつぶやきに、一瞬手が止まったが、それはすぐ苦笑に変わった。
『アリョーシャ』はカラマーゾフの登場人物の名だ。
小説の人物に嫉妬しても始まらない。
手塚はさっきより大胆に七星の髪を撫でた…。
それで目が覚めた七星があわてたようにはね起きると
「あ、ごめんなさい!真田さん!8四角です」
…と手塚に言った。
(─真田…!?)
手塚が凍りついたように固まった。
「…あれ…」
目をこすり、キョロキョロと辺りを見回すと、手塚が視界に入り、自分が生徒会室に居たことを思い出した。
「手塚先輩!」
びっくりして、あわてて手塚に詫びた。
「す…すみません。真田さんと将棋メールしながら、うたた寝してたみたいで…あの、真田さんとはメール将棋をしていて、次の一手を考えていたんです」
恐縮するように、机の端に寄る。
「将棋…本当にそれだけ…か?普通メールなら他にも何か話すものだろう…?」
手塚は逆に一歩詰める。
「…え、ほんとです…けど?あの…真田さんは将棋の一手しかメールして来ませんが…?」
「本当に…?」
自分でもなぜこんなに疑うのか…わからない。
「ほんとにほんと…です」
七星が一歩下がる。
疑えば距離が離れるのに、止められない。
「見せてくれ」
机の上に開いたままの七星の携帯に、手のひらを差し出した。
「…あ…はい」
一瞬戸惑いを見せたが、七星は手塚に開いたままの携帯を渡した。
手塚は携帯の受信履歴を見た。真田からのは全て『6一飛』『7五歩』など、ほんとに将棋の一手しかなく、真田らしい…と疑った自分が恥ずかしく思えた矢先─
『幸村』の名を見てしまった─
《今日は逢えて嬉しかった。君に必要とされる自分がいる。それだけで幸せを感じるよ。君に言ったことは嘘偽りなく本当だから。俺は君が好きだ》
そっと幸村の文を見た手塚は、目の前が真っ暗になった。
立海大の幸村が七星を──……。