125キロの加速 ナツのオトメ1*
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カバンとラケットの入ったバッグを床に置くと、自分も座り込んで、やっとひと息ついた。
「ふぅ…」
「もしかして走って来たの?」
ちょっと疲れて、へたり込んだ感じのリョーマくんにあわてて聞いた。
「まぁね」
「え…えと、あたしに用事?」
「別に」
(…う…何なのよ…。いきなり駆けてきたのに、用事でも何でもないって…)
「また空見てたな」
「え?あ…うん」
「一番星か?」
「ううん、月」
「月?」
「うん」
だんだん夜の帳(とばり)が降りて薄暗くなってきた。
手塚はやっと仕事の終わった生徒会室から自分の教室に向かおうとしたが、気を変えて図書室に足を向けた。
もう図書室には誰もいない。しかし、手塚はある書棚に真っ直ぐ向かった。
『カラマーゾフの兄弟』を手に取ると一番後ろのページを繰った。貸し出しカードを見ると、案の上自分の後に借りた生徒は一人もいない。
「…読み終えたらな…」
ふ…とかすかな笑みを浮かべると本を書棚に戻した。
「月がどうした?」
リョーマくんが、壁に寄りかかったまんまあたしに聞いて来る。
あたしも座って、リョーマくんと並んで壁に寄りかかった。
「知ってる?月って大昔はもっとずっと、地球に近いとこにあったんだって」
「そうなんだ。で?」
「だから今の月より、うんと大きく見えたの」
「ふぅん…見てみたいな。そんなデカくて近い月」
「あたしもそう思う」
ふふ…とリョーマくんに笑いかける。
「じゃ、何で今は地球から離れてんだ?」
(笑うなよ…焦るだろ)
「今も少しずつ、月は地球から離れているんだよ」
「へぇ…?どれくらい」
「ちょっとうろ覚えなんだけど、毎年3センチか30センチ」
「さん…センチ…?」
はぁ?…と言う顔をして、リョーマくんがあたしを見た。
「でも、たとえ3センチか30センチでも、それが何憶年も続いたら…いつかいなくなる。地球は45憶年も傍にいた月っていう…友達か…恋人か…をなくしちゃうんだよ」
月がなくなったら、地球はどうなるんだろう…。
漠然と考えた。
「手塚先輩ならわかるかな…」
ふと思いついてつぶやいた。
リョーマくんが、壁から背を離すと、
「…何で部長が出て来るんだ?」
…何だか不機嫌そう…?
「え…あの月が地球から離れたら、地球はどうなるか…てこと。手塚先輩ならわかりそうかなって思ったんだけど…ダメ?」
「ダメ」
「何で?」
「ムカつく」
「…何で?」