125キロの加速 ナツのオトメ5
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あたしを送るついで、と跡部さんは言うけど、どう考えても距離的にあたしのほうがついでだと思う。
でも、その考えは間違いだとすぐに気づいた。
「跡部さん、この道だと青学とは反対方向ですけど」
なめらかに加速し始めた高級車がハンドルを向けた先は、神奈川だった。
「お前が先で幸村が後だなんて、俺様は一言も言っちゃいねぇぜ」
シートにゆったりと身を沈める跡部さんは、ニヤリと笑う。
またやられた。
今日二度目の病室にお邪魔すると、さすがに幸村さんも驚いてあたしと跡部さんを見比べた。
いつもは穏やかな幸村さんが、わずかに顔をしかめた感じがしたけれど、気のせいだったかもしれない。
反対に跡部さんは妙に機嫌がいい、ようにも見える。
「あの、お見舞いのお花活けますね」
何となく気まずいような二人の雰囲気に、途中の花屋で選んだ花束を抱えたまま、幸村さんにそっと声をかけた。
「あ、うん。あ、悪いけどナースステーションに行って花瓶を借りて来てもらえるかな?」
「はい、わかりました」
ごめんね、と幸村さんは申し訳なさそうに微笑むけれど、病室にはすでに花が飾られている。きっとテニス部の人達からだろう。
あたしは見舞い客用のパイプ椅子に花束を置くと病室を出て、ナースステーションに向かった。
「で、本当になぜ七星さんまでわざわざ連れて来るのかな?」
「言ったろう? あいつを送るついでにこれを持って行くと」
そう跡部は言うと、幸村の布団の上にポンと紙袋を置いた。
確かについでとは聞いたが、七星本人まで来るとは思いもよらなかった。
「納得いかねえ顔だな?」
跡部は自然とニヤつく。
「当たり前だろ」
面白くない。それは当然だ。七星が来てくれるなら大歓迎だが、一人でというのが前提になる。それでも、立海のメンバーと来るならまだ辛うじて許容範囲内だが、氷帝の俺様は別だ。
「看護師さんが親切な方で、花鋏も貸してくれました」
急いだのか、ほんの四、五分で花瓶と花鋏を手に七星が病室に戻った。
「ありがとう、七星さん。なるほど。これを丸井に渡せばいいんだね?」
一瞬で幸村は話題を切り替えると、いつもの人当たりのいい表情で七星に微笑み、跡部に視線を戻した。
「大体、どうして君がここに? 丸井に渡すのを急ぐなら渡したい本人が立海までくれば済むことだ」
七星が室内の洗面所で花瓶を洗い、水を流しながら花の茎を切る音に紛れるように跡部に問いただす。
「俺様が立海の部長を見舞っちゃいけねえわけでもあるのか?」
跡部は事もなげに笑うが、ふと真顔になり幸村を見つめた。