125キロの加速 ナツのオトメ5
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「そうか、それは手間をかけさせちまったな」
掌に乗せた紙袋を軽く上下させると、跡部さんが微笑んだ。
でも、芥川さんの忘れ物をわざわざ跡部さんが取りに来るなんて、と思ったら
「俺様は車だからな、あいつらが引き返すより手っ取り早い」
そう告げる跡部さんは、仲間思いで優しい……のだろうけど、どことなくいつもとは違う感じがする。
いつもの自信たっぷりの俺様の気配が、弱い。
「どうした? お前も帰るなら送るぜ?」
「え、と……」
送って貰えるなら楽かな、とちょっと打算的に考えた時、携帯が再び震えた。メールだろうと出ずにいたのに、バッグから伝わる振動は思いのほか長い。
着信だと気づき、あわてて携帯をつかみ出すと跡部さんに一言断りを入れ、背を向けた。
『七星さん?』
「幸村さん?」
着信名を見ないまま出たので、いきなり幸村さんの声が耳に届いて驚く。
『ふふ、どうかしたの? そんなに焦って』
「いえ、誰からか確認しなかったので、つい」
どことなく悪戯っぽく聞こえる幸村さんの声に、わけもなくしどろもどろしてしまう。
『そう。ああ、何だか今日はごめんね』
と、幸村さんは検査の事や試合の実況が途切れた事を謝ってくれた。
「あ、いえ、そんな事は気にしないで……」
そう言いかけたあたしの手から、急に携帯が消えた。
「え?」
「よう、幸村」
(ええ?)
振り返れば、なぜかあたしの携帯で幸村さんと話し始める跡部さん。
『もしかしなくても跡部?』
「ああ、俺様だ」
『なぜ七星さんの携帯に?』
「ちょうど目の前にいたからな」
どことなく愉快そうに跡部さんは話す。少し前までまとっていた気弱さも、いつの間にかなくなっている。
「俺のところの芥川が、お前のところの丸井に渡しそびれた物があるんだよ。ついでだからな、今からそっちに持って行ってやるぜ」
言うだけ言うと跡部さんは、さっさと終了ボタンを押してしまった。
「そら、行くぜ」
「え?」
「お前を送るついでに、こいつを幸村に渡して来る」
あの紙袋をゆるく振り、跡部さんはもっと面白そうに笑った。