125キロの加速 ナツのオトメ5
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氷帝側のベンチも遠目に覗いて見たけど、やはり誰もいなかった。
勝った青学のメンバーも先ほど会場を後にしているのだから、負けてしまった氷帝がいつまでもここにいるわけないのに。
「何してるんだろ、あたし……」
氷帝の応援をしていた……わけではない。
確かに皆凄かった。いつも知っている姿とは思いも寄らないテニスへの打ち込み。
けれど自分は青学の生徒だから、青学が勝てば素直に嬉しいと思う。
でも、最後にコートに敬意を表した跡部さんの静かな姿勢が頭をよぎる。
跡部さんは3年生で、これが本当に最後の試合だったんだ。
手塚先輩との死闘とも言えるような見事なプレイ。
あんなにも素晴らしいプレイヤーでさえ全国へ行けないなんて……。
残念だな、と心底思う。
「でも、高校野球でもそうだけど、地方大会を勝ち抜いて全国大会へ出るのは大変なことだよね……」
人気の消えた会場をもう一度見渡しながらそんな風に思った。
「あ、あなた氷帝の人?」
「え?」
控え室を離れ、帰ろうと出口に向かいかけた時、不意に背後から呼びかけられた。
「ちょうどよかった。これ忘れ物みたい。控え室にあったの、選手に渡してね」
「え、あの」
ここのスタッフらしき人は、こちらの戸惑いもお構いなしにその忘れ物という袋を半ば押しつけるように預けると、清掃用具を片手にあわただしく控え室に戻って行った。
(え、これをあたしにどうしろって言うの……)
少しの間呆然とそこにいたけれど、一般客の姿はすでになく、とにかくその場から急いで離れた。
会場の出入り口まで来たところで足を止め、預かった袋を改めて見てみる。それほどの重さはない。
「実はゴミでした、なら捨てて帰ればいいけど……」
忘れ物と言った以上、スタッフの人だって中を確認しているはずだ。
とりあえず中を見てから、と思った時にバッグの携帯が震えた。