125キロの加速 ナツのオトメ4*
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「そうだね、これなら特に問題はないかな」
「ありがとうございます」
西日の差し込む窓際はシェードが下ろされ、その隙間からは柔らかな光が垣間見える。
室内の電灯が白い壁や床、そして目の前の椅子に座りカルテを書き込む医者の白衣を照らして反射させる。エアコンの風がデスク脇に置かれた花瓶の花を揺らす。この無機質な部屋で唯一、生を感じさせるものだ。
「ただ、治ったとは言っても酷使はいけないぞ。またぶり返す可能性もあるんだから、何事もほどほどだよ、手塚くん」
医者はカルテから顔を上げると自分の前に座る患者、手塚国光をじっと見てそう言った。
「…わかっています」
言葉少なに手塚も答えると、椅子から立ち上がり診察室を後にした。
…ほどほどで勝てる相手だろうか。
医院のドアを開けると、まぶしく暑い空気が少しだけ冷えた手塚の身体をすぐさま包み込んだ。
関東大会初日一回戦の相手は氷帝学園だ。部長の跡部景吾を筆頭にD-1の宍戸に鳳、D-2の忍足と向日、芥川に樺地…と家路に向かい、歩き出した手塚の脳裏に氷帝メンバーが浮かんでは消えていく。
練習試合では水入りとなり、決着はつかなかった。だから跡部と打ち合うこともなかった。
どう出るか…。
立ち止まり、手塚は夕暮れの迫る空を見上げた。わずかにそよぐ、まだ生温い風に無意識に以前痛めた肘をさする。
やれる。
それだけだ。迷うことはない。何かを断ち切ると、手塚はまたひぐらしの鳴く中を歩き始めた。
「…明日か…」
軽いランニングから戻った跡部はシャワーで汗を流し、無造作に雫がしたたる髪をタオルでぬぐった。
「…S-1は手塚で決まりだ」
他のメンバーもいつもの通りだろう。
そう考えながら、跡部は自室からテラスへ出る窓を大きく押し開けた。先ほどより夕暮れの濃くなった風は、幾分涼しさを運んで来た。
「明日…」
七星もまた、部屋の窓を開けた。薄暮(はくぼ)に染まる空の、蒼の色合いについ見とれてしまう。
「一番星がそろそろね…」
白い月は薄い空色に隠れながらも、すでにたたずみ浮かんでいる。
青学と氷帝…。
初日一回戦から好カードだ。でも、七星にすれば青学の応援だけでなく、みんなを応援したい。
この日を越えて全国へ向かうみんなのために…。
fin.
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