アストル短編まとめ

【澄んだ虎目石の瞳】


 星を見るからついてこいと言われて夜の砂漠に赴いたのはいつだったか。
 その時はまだ彼と我らとが結託してすぐだったと思う。
 星の動きを見て占いを行うと聞いてはいたが、実際に星を見る占い師殿を見たのはその時が初めてだった。

「ゲルド砂漠は砂嵐でもこない限り星が見放題なのは助かる」

 そんなことを若干嬉しそうにしていたのが印象的だった。
 いざ天球儀を持って星の動きを読む占い師殿はなるほど堂が入っていた。
 的確に星を見つけその動きから少し先の未来の天候などを割り出していく姿は、この者が本当に占い師なのだという認識を深く刻みつけられた。

 印象的と言えば、いつもは人を寄せ付けないような濁った虎目石色をしていた瞳が、星を見る際は澄んでいたことだ。

「澄んでいるでござるな」
「あぁ、今宵も星が綺麗だ」
「――。そうでござるな」

 彼の瞳に関してポツリと出た感想は星空へのものだと勘違いされてしまったが、訂正はしなかった。
 言えば今だけ澄んでいるであろう瞳が一瞬で濁ってしまいそうだったから。

「そろそろ戻ろう。魔物が出るやもしれぬとお前に来てもらったが、どうもこの辺りは安全なようだ。今後は一人で来ることにしよう」

 しばらくして彼は天球儀をしまい始める。
 占い師殿はまた濁ってしまった虎目の瞳をローブで隠すようにして、アジトへ戻っていった。
 それに遅れること数秒、自分もアジトへの帰途についた。
 濁ってしまった虎目の瞳も今後は一人で星を見に行くというのも、どこか惜しいと感じる自分がいたが結局なぜそう思ったかは今も分からず終いである。


どれだけの星を見上げてきたのだろう
虎目の瞳は今宵も澄んで

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