リバミファ二次小説

【嫉妬と壁ドン】


 ―――ハイラル城、英傑の間。

 ある日英傑同士の会合の為に英傑の間に向かうと、ミファーが部屋の入口で何やらこそこそとしていた。

「何してるんだい?」
「(ひゃっ!)」

 ミファーに声を掛けると、彼女はリスが驚いたような小さな声を発した。こんな声も出るんだなとその意外性を冷静に受け止める。

「(り、リーバルさん?!)」
「(何こそこそしてんのさ)」
「(え、えっと……)」

 声を潜めて発言する彼女に思わず合わせて僕も声を潜める。何やら覗き見していたように思われるが……。

(へぇ、なるほど……)

 ミファーが気まずそうに指差した先には、談笑する姫と退魔の剣の主がいた。あいつが終始無表情だから、談笑と言って良いのか判断に迷うが姫があいつ相手に楽しそうに話をしているからそういうことにしておこう。

「(二人がとっても楽しそうで、入りにくくて……)」

 あいつの幼馴染であるミファーから見れば、あの無表情でも楽しそうにしているらしい。
 僕には全く理解できなかったが。

「(私も、あんな風にリンクとお喋りできたらなぁ……)」

 そう言いながらミファーは悲しげな顔をする。
 このお姫様はどうも、あいつと話せなくてしょんぼりしているようだ。

「(なんだ、あいつと話せなくて姫に嫉妬でもしてるのかい?)」
「(?! し、嫉妬なんか……!)」

 僕の言葉にミファーは少しばかり大袈裟に反応する。図星のようだ。

「(なら、堂々と部屋に入って二人の談笑に加われば良いじゃないか)」
「(で、でも……良い雰囲気にも見えるし)」
「(やれやれ、そんなんじゃ今にあいつを姫に取られてしまうよ?)」
「(!! そ、それは……嫌、だけど)」

 そう言って、ミファーはしょんぼりした顔を更にしょんぼりとさせていた。それでも二人の様子が気になるようでしょんぼりとした顔でまだ談笑している二人を見つめていた。

(…………)

 本当に、このお姫様の恋はまどろっこしい。
 きっと初恋なんだろうしおとなしい性格が仇となっているのだろうが、そうだとしてもこの調子では実る恋も実らなくなる。

(何か手助けしてあげても良いけど……そうだ)

 少しだけ面白いことを思いついたので早速試してみることにした。城下町で最近流行っているとあることをミファーにやってみたくなったのだ。

「(ねぇミファー、ちょっと協力してくれない?)」
「(? 一体どうしたの?)」
「(この壁を背にして立っててくれたらそれでいいから)」
「(えっと……こう?)」

 そう言って、ミファーは不思議そうに僕の指示に従ってくれた。
 少しくらい僕が何を企んでいるのか疑っても良いだろうに。ちょっとだけ、このお姫様の人の善すぎることに不安を覚えた。

「(そうそう、そこから動かないでね)」
「(うん……)」

 壁に少しだけよりかかる形でミファーは動きを止める。準備は万端だ。

「(じゃあ、いくよ)」
「……えっ? キャァアッ!!」

 僕がミファーの顔の横スレスレで壁にドンと手をつけると、彼女はとてつもなくびっくりした顔をして比較的大きな悲鳴を上げた。
 通称壁ドン。ハイリア人の恋人達の間で流行っている謎の多い行動だ。

「?! 誰……?!」
「!」

 談笑していた二人もミファーの悲鳴に気づいたようで、椅子からガタリと立って驚いた顔でこちらを見ていた。

「リーバル、ミファー? 一体何を……?」
「なに、このお姫様が二人が楽しそうに話してて入りにくそうにしてたから入りやすくしてあげたまでだよ」

 ミファーの顔の横の壁についていた手は即座に下ろして、姫に弁明する。

「すっ、すみません、話に夢中になっていて貴方がたが来ていたことに気付けなくて……」
「良いって、気付いてくれたのならそれで」

 こちらに謝ってくる姫に話しながら横にいたあいつの顔をチラと見てみると、見たこともないような憤怒の表情を浮かべていた。
 どうも、僕がミファーに壁ドンしたことに怒っているらしい。その怒りは大切な家族を傷付けた者に対する怒りによく似ていた。

(なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか)

 よく分からない安堵が僕の心に広がる。

「君がずっと姫にばかりかまけていたら、今に僕がミファーを奪ってしまうよ?」

 ダメ押しのようにあいつに冗談を言えば、その顔は更に怒りが刻まれていた。

(ふん……)

 ―――リトの村で挑発した時もこのくらい反応してくれればこちらもモヤモヤしなかったのに。
 改めてこいつの考えていることは理解出来ない。

「あの、リンク? 私は大丈夫だからその……リーバルさんを怒らないで?」
「…………」

 あいつの異常に気付いたのかミファーがあいつに恐る恐る声をかける。だがあいつは真っ直ぐ僕を睨みつけたままだった。

「元々姫様と貴方の前に中々姿を出せなかった私が悪いの。リーバルさんは多分、私にきっかけをくれようとしただけだから、ね?」
「……ミファーが、そう言うなら」

 そう言って、あいつは僕を睨むのを止めた。
 …………。
 微かに己の背中がブルリと震えたのが分かった。
 この僕を震えさせるとは……退魔の剣に選ばれたのも伊達ではないようだ。

「弁明ありがとう、ミファー。今にこいつに睨み殺されるかと思ったよ」

 背中の震えをおくびにも出さずまた嫌味を口にするが、あいつはいつもの無表情に戻っていた。
 ……実に面白くない。

「もう、リーバルさんもリンクを挑発するようなこと言っちゃダメだよ」
「リーバル、気持ちは分かりますがここは穏便に……」

 面白くないのが顔に出ていたのか、姫とミファー二人がかりで僕を説得にかかる。姫も姫だ。少し前まであれだけあいつのことを嫌がっていたのに。

「分かった分かった。全く、お姫様がたには敵わないな」

 両手を上げて降参のポーズを取る。多勢に無勢。僕だってやんごとなきお姫様がたの顔を無意味に曇らせたくはないのである。

(しかし……)

 ミファーに壁ドンした時の彼女の驚いた顔を思い出す。

(可憐……だったな)

 そういう顔をもっとあいつに見せれば良いのに。

(いやでも)

 あいつに色んな表情を見せるミファーを想像したら一気に嫌な気分になった。なぜだろう?

(まぁいいか)

 余計なことは考えないに限る。
 そうこうしてる内に残りの二人もやってきたので、僕らの会話はここで終わりとなった。


 あの時、もし自分の気持ちに気付いていれば……そうすればもっと違う未来があったのかななんて僕が思うことになるのは、まだ先の話。
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