リバミファ二次小説
【人魚姫の子守唄】
「〜♪」
歌が聞こえる。
とても懐かしい歌が。
リトの古い言葉で『竜の島』を意味する歌は、僕が幼い頃吟遊詩人だった母がよく歌ってくれた歌の一つだ。
歌ってくれた母ももう亡くなって随分経ってしまったが、思い出深い一曲であることはずっと変わらなかった。
「〜♫」
歌を歌っているのは吟遊詩人の類ではなさそうだ。声自体は綺麗だったが所々不均一に震え、音程もやや不安定だった。音の聞き分けには自信がある。歌っているのはどうも玄人ではないようだ。
だが――。
「〜♪」
その歌声はずっと聞いていたくなる程柔らかで心地良かった。まるで子守唄を歌う母親のような深い愛情が湧き水のように溢れていた。
決して完璧とは言えない歌声はしかし、僕の耳朶を優しく包み懐かしさを思い起こさせる。
例えば静かな早朝、母と二人で朝食を作ったこと。例えば穏やかな黄昏時、父の背中に乗って空を飛んだこと。例えば寒い夜、親子三人でくっつきあって眠ったこと。記憶の奥に大事にしまっていた思い出が溢れてくる。
(――――あぁ)
気付けば涙を流していた。涙を流したのなんていつぶりだろうか。少し恥ずかしい。
「…ー………ん、リー……さん」
そんな事を考えていたら誰かに呼ばれる声がして、僕の意識は次第に浮上していった。
◇ ◇
「…………ん」
「リーバルさん、起きた?」
ゆっくり目蓋を開けると、心配そうな黄色の瞳と目があった。
「ミファー……?」
「うん、そうだよ。リーバルさん、あまりの暑さに倒れちゃったんだけど覚えてる?」
「…………」
そこまで言われて、自身に起きてしまったことを思い出す。そうだ、突然中央ハイラルに熱波が襲ってハイラル城はゲルド地方並に暑くなってしまって僕は倒れてしまったのだ。
「君が介抱してくれたのか」
「うん。他に誰もいなかったから」
「迷惑、かけちゃったね」
「気にしないで。お互い様だから」
そう言って、ミファーは安心したように微笑んだ。あまり負担をかけていないと良いのだが。
(そういえば)
歌を歌っていたのはミファーだったのだろうか。
「もしかして、歌歌ってた?」
「えっ、そうだけど……まさか聞こえてた?」
僕の質問にミファーは驚き恥ずかし気に肯定する。
「微かだけど聞こえてたよ」
「ごめんなさい、下手だったよね……」
「そんなことないさ。おかげで心地良く目覚めることが出来たし」
「本当?」
「嘘じゃない。綺麗な歌声だったよ」
「良かった。リーバルさんに歌で褒められるなんて嬉しいよ」
僕が日頃音楽にうるさいからか、歌声を褒めればミファーは花が咲くように笑う。
それがとても可愛らしくて、僕は直視できずにそっぽを向きながら話を続けた。
「そ、それにしてもどこであの曲を?」
「昔、リト族の吟遊詩人さんが里にやってきてこの歌を披露してくれたの。それを覚えてて……」
「へぇ」
リト族の吟遊詩人……? 誰だろう。ミファーが昔と言うのだから、もしかして僕が生まれる前のことなのかもしれない。
「この曲、なんだか懐かしくて胸が切なくなっちゃうんだ」
「確かに。郷愁を誘う名曲だからね」
「リト族の中でもそうなんだ。メロディーがとっても素敵だよね」
「ああ。僕もそう思う」
「ふふっ、リーバルさんと音楽の話ができるなんて思わなかったな」
僕が微笑みながら頷けば、ミファーがまた笑う。その声に先程の綺麗な歌声を思い出してしまい、また無性に聞きたくなってくる。
「……その、ミファー」
「どうしたの?」
「君が良ければでいいんだけど、あの曲……もう一度歌ってくれないかい?」
「私なんかで良いの?」
「ああ、君の歌声で聞きたいんだ」
「本当は恥ずかしいけど、リーバルさんがそこまで言うなら……」
そう言ってミファーは恥ずかしげに咳払いをして、歌を歌い始める。
「〜♪」
(――ああ)
目をつぶり、その歌声の隅々に耳を澄ます。
清水が滔々と流れるようなミファーの歌声は、暑さに倒れた僕の体に沁みていくようだった。
「〜♫」
確かにミファーは吟遊詩人のような歌の玄人ではない。ではないが、だからこそ胸に響くものがあるではないかと僕は考える。
「――――」
閉じていた目を開け、伸びやかに歌うミファーを見上げる。彼女もまた目をつぶり、楽しそうに歌っていた。ミファーの姿は僕の亡き母親の姿とどことなくかぶり、僕は思わず目を細めた。涙がこぼれてしまわないように。
◇ ◇
「はぁ、緊張したけどうまく歌えたかな?」
「ああ、素敵な歌声だったよ。ありがとう、歌ってくれて」
不安気なミファーに拍手をすれば、彼女は照れ臭そうにはにかむ。その顔が見れたのも儲けものだ。
そんなことを考えていたらミファーが何かを思いついたような顔をして口を開いた。
「そうだ、今度で良いからリーバルさんの歌も聴いてみたいな」
「僕の?」
「うん。リーバルさんの声って綺麗だし、歌ったらきっと綺麗だと思うから」
(参ったな……)
これは予想外の展開だ。
確かに僕は歌も楽器演奏も得意だが、リトの戦士が誰か一人の為に歌を歌うのはプロポーズになってしまうのだ。
(うーん……)
ただ、ミファーは僕の為に一生懸命歌ってくれた。その感謝を返せないのは僕のプライドが許さないのである。
「……すぐにとは言えないけど、考えておくよ」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
言葉を選んで口に出せば、ミファーは本当に嬉しそうに笑う。その笑みをもっと見れるなら、何でも出来そうな気さえした。
(? そういえば……)
話が一段落ついた時、一つ気になることが発生する。今日のミファーは僕を覗き込むようにして話すのだが、僕は今一体何に寝かされているのだろうか。頭のひんやりして柔らかな感触に、なぜだか猛烈に嫌な予感がしてくる。
「ねぇ、僕って今何に寝かされてるのかな?」
「? 私の膝だよ?」
…………。
あまりの爆弾発言に、ミファーの歌声も約束も何もかも吹っ飛ぶところだった。
ミファーには歌を歌ってあげるより先に、異性との適切な距離の取り方を教えた方が良いのかもしれない。
「〜♪」
歌が聞こえる。
とても懐かしい歌が。
リトの古い言葉で『竜の島』を意味する歌は、僕が幼い頃吟遊詩人だった母がよく歌ってくれた歌の一つだ。
歌ってくれた母ももう亡くなって随分経ってしまったが、思い出深い一曲であることはずっと変わらなかった。
「〜♫」
歌を歌っているのは吟遊詩人の類ではなさそうだ。声自体は綺麗だったが所々不均一に震え、音程もやや不安定だった。音の聞き分けには自信がある。歌っているのはどうも玄人ではないようだ。
だが――。
「〜♪」
その歌声はずっと聞いていたくなる程柔らかで心地良かった。まるで子守唄を歌う母親のような深い愛情が湧き水のように溢れていた。
決して完璧とは言えない歌声はしかし、僕の耳朶を優しく包み懐かしさを思い起こさせる。
例えば静かな早朝、母と二人で朝食を作ったこと。例えば穏やかな黄昏時、父の背中に乗って空を飛んだこと。例えば寒い夜、親子三人でくっつきあって眠ったこと。記憶の奥に大事にしまっていた思い出が溢れてくる。
(――――あぁ)
気付けば涙を流していた。涙を流したのなんていつぶりだろうか。少し恥ずかしい。
「…ー………ん、リー……さん」
そんな事を考えていたら誰かに呼ばれる声がして、僕の意識は次第に浮上していった。
◇ ◇
「…………ん」
「リーバルさん、起きた?」
ゆっくり目蓋を開けると、心配そうな黄色の瞳と目があった。
「ミファー……?」
「うん、そうだよ。リーバルさん、あまりの暑さに倒れちゃったんだけど覚えてる?」
「…………」
そこまで言われて、自身に起きてしまったことを思い出す。そうだ、突然中央ハイラルに熱波が襲ってハイラル城はゲルド地方並に暑くなってしまって僕は倒れてしまったのだ。
「君が介抱してくれたのか」
「うん。他に誰もいなかったから」
「迷惑、かけちゃったね」
「気にしないで。お互い様だから」
そう言って、ミファーは安心したように微笑んだ。あまり負担をかけていないと良いのだが。
(そういえば)
歌を歌っていたのはミファーだったのだろうか。
「もしかして、歌歌ってた?」
「えっ、そうだけど……まさか聞こえてた?」
僕の質問にミファーは驚き恥ずかし気に肯定する。
「微かだけど聞こえてたよ」
「ごめんなさい、下手だったよね……」
「そんなことないさ。おかげで心地良く目覚めることが出来たし」
「本当?」
「嘘じゃない。綺麗な歌声だったよ」
「良かった。リーバルさんに歌で褒められるなんて嬉しいよ」
僕が日頃音楽にうるさいからか、歌声を褒めればミファーは花が咲くように笑う。
それがとても可愛らしくて、僕は直視できずにそっぽを向きながら話を続けた。
「そ、それにしてもどこであの曲を?」
「昔、リト族の吟遊詩人さんが里にやってきてこの歌を披露してくれたの。それを覚えてて……」
「へぇ」
リト族の吟遊詩人……? 誰だろう。ミファーが昔と言うのだから、もしかして僕が生まれる前のことなのかもしれない。
「この曲、なんだか懐かしくて胸が切なくなっちゃうんだ」
「確かに。郷愁を誘う名曲だからね」
「リト族の中でもそうなんだ。メロディーがとっても素敵だよね」
「ああ。僕もそう思う」
「ふふっ、リーバルさんと音楽の話ができるなんて思わなかったな」
僕が微笑みながら頷けば、ミファーがまた笑う。その声に先程の綺麗な歌声を思い出してしまい、また無性に聞きたくなってくる。
「……その、ミファー」
「どうしたの?」
「君が良ければでいいんだけど、あの曲……もう一度歌ってくれないかい?」
「私なんかで良いの?」
「ああ、君の歌声で聞きたいんだ」
「本当は恥ずかしいけど、リーバルさんがそこまで言うなら……」
そう言ってミファーは恥ずかしげに咳払いをして、歌を歌い始める。
「〜♪」
(――ああ)
目をつぶり、その歌声の隅々に耳を澄ます。
清水が滔々と流れるようなミファーの歌声は、暑さに倒れた僕の体に沁みていくようだった。
「〜♫」
確かにミファーは吟遊詩人のような歌の玄人ではない。ではないが、だからこそ胸に響くものがあるではないかと僕は考える。
「――――」
閉じていた目を開け、伸びやかに歌うミファーを見上げる。彼女もまた目をつぶり、楽しそうに歌っていた。ミファーの姿は僕の亡き母親の姿とどことなくかぶり、僕は思わず目を細めた。涙がこぼれてしまわないように。
◇ ◇
「はぁ、緊張したけどうまく歌えたかな?」
「ああ、素敵な歌声だったよ。ありがとう、歌ってくれて」
不安気なミファーに拍手をすれば、彼女は照れ臭そうにはにかむ。その顔が見れたのも儲けものだ。
そんなことを考えていたらミファーが何かを思いついたような顔をして口を開いた。
「そうだ、今度で良いからリーバルさんの歌も聴いてみたいな」
「僕の?」
「うん。リーバルさんの声って綺麗だし、歌ったらきっと綺麗だと思うから」
(参ったな……)
これは予想外の展開だ。
確かに僕は歌も楽器演奏も得意だが、リトの戦士が誰か一人の為に歌を歌うのはプロポーズになってしまうのだ。
(うーん……)
ただ、ミファーは僕の為に一生懸命歌ってくれた。その感謝を返せないのは僕のプライドが許さないのである。
「……すぐにとは言えないけど、考えておくよ」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
言葉を選んで口に出せば、ミファーは本当に嬉しそうに笑う。その笑みをもっと見れるなら、何でも出来そうな気さえした。
(? そういえば……)
話が一段落ついた時、一つ気になることが発生する。今日のミファーは僕を覗き込むようにして話すのだが、僕は今一体何に寝かされているのだろうか。頭のひんやりして柔らかな感触に、なぜだか猛烈に嫌な予感がしてくる。
「ねぇ、僕って今何に寝かされてるのかな?」
「? 私の膝だよ?」
…………。
あまりの爆弾発言に、ミファーの歌声も約束も何もかも吹っ飛ぶところだった。
ミファーには歌を歌ってあげるより先に、異性との適切な距離の取り方を教えた方が良いのかもしれない。
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