リバミファ二次小説

【偽りの告白】


 ―――ラネール地方、セラの滝。

「君のこと、ずっと好きだった」

 厄災討伐が奇跡的に成功してしばらくして、私はリーバルさんに告白された。
 夕暮れ時のセラの滝は茜色に染まり、水面はキラキラと輝いている。告白するシチュエーションとしては百点満点である。
 だけど……。

「もう、リーバルさんったら。そんなに緊張して、いつもの貴方らしくないよ」

 彼の思惑が微笑ましくて、思わず笑みを浮かべてしまう。そんな私にリーバルさんはひどく怪訝な顔をしていた。

「告白する為に練習したかったんでしょう?そういうことは前もって言ってくれないと私も誤解しちゃうよ」
「…………」

 だって私、知っているもの。リーバルさんがリンクに護衛さえさせず姫様と二人で温泉に行った話を。姫様から直接聞いた話だから、間違いではないはず。

「リーバルさんって姫様のこと好きなんでしょう?」

 そんなことを好きでもない人にするとは思えないから、私の予想が外れるなんてありえない。だからこそ、この告白もきっと偽りであると確信できた。

「ミファー、それは……」
「好きではない人と二人きりで温泉に行くなんて、貴方ならしないでしょう?」
「…………」

 私がそう言うと、リーバルさんは今まで見たことのないくらい苦々しい顔をしていた。
 まるで幼い子どもが目の前で母親を失くしてしまったような、そんな表情だった。
 目論見を看破されてしまったのがそんなに嫌だったのだろうか。

「…………やれやれ、君には本当に敵わないな」

 しばらくしてリーバルさんはそんな言葉を呟いた。その声はいつものリーバルさんらしくないひどく情けないものだった。
 告白の練習がしたかっただけで、こんな声を出すのか少しだけ疑問に思ったがその疑問は隅に追いやった。

「すまないね、こんなことに君の時間を取らせてしまって」

 そう言って、リーバルさんは私に背を向けてしまう。表情を伺いたかったが、距離があったので仕方なく諦めた。
 リーバルさんはそのまま何も言わずに星がきらめきだした空に飛び上がり、自分の村へと帰って行った。
 自分が重大な勘違いをしたままだとは気付けないまま、彼の飛んでいく様をじっと見上げていた。


 ◇ ◇


 ―――ラネール地方、セラの滝。

「君のこと、ずっと好きだった」

 厄災討伐が奇跡的に成功してしばらくして、僕はミファーに告白した。
 夕暮れ時のセラの滝は茜色に染まり、水面はキラキラと輝いている。告白するシチュエーションとしては百点満点であると自負している。
 あとはミファーの返事を待つだけなのだが……。

「もう、リーバルさんったら。そんなに緊張して、いつもの貴方らしくないよ」

 何か……微笑ましいものを見たようにミファーは柔らかく笑う。その表情は好意を知らされた直後とは思えない笑みだった。

「告白する為に練習したかったんでしょう? そういうことは前もって言ってくれないと私も誤解しちゃうよ」
「…………」

 あまりにも意外な言葉がミファーの口から飛び出した。シチュエーションまで考えに考え抜いての告白だったから、僕は正直微かな怒りさえ覚えた。

「リーバルさんって姫様のこと好きなんでしょう?」

 この怒りをどう飲み込もうかと考えていると、ミファーから更に意外な言葉を投げかけられた。つまりこの告白が偽りであると彼女からは確信されているようだった。
 ――姫のことは、嫌いじゃない。その真っ直ぐに努力を続ける姿は好ましいとすら思っている。だけど……。

(まさか、僕が姫を温泉に連れて行ったことを誤解しているのか?)

 あれはリトの村を姫が訪れた際に彼女の後ろに控えるあいつがあまりにも気遣いが出来ずにいて、姫がとてつもなく気疲れしていたからだ。少しでも気が休まるならと思い、姫の護衛をかって出てあいつと引き離して温泉へと連れて行ったのだ。
 ハイリアの女神に誓ってやましい気持ちなど決してない。あいつを出し抜けたことに対する昏い喜びの感情があったのは確かだったが。

「ミファー、それは……」
「好きではない人と二人きりで温泉に行くなんて、貴方ならしないでしょう?」
「…………」

 そう言われて、僕は自分の行ったことへの重大さにようやく気が付いた。
 ここで本当にミファーのことが好きだと誤解を解いたところで、今度はではなぜ姫と二人きりで温泉に行ったのか問われてしまうからだ。好きではない異性と二人きりで温泉に行ったと知られれば、僕はミファーからひどく幻滅されることだろう。
 俗に言う“詰み”という状況だった。

「…………やれやれ、君には本当に敵わないな」

 やっと絞り出した声は自分で聞いてもひどく情けなかった。
 ミファーの僕に対する良い印象を守るため、幻滅されないためには僕が姫を好きなのだと思っている彼女の誤解を解けないのである。そしてそれは一生続くのだ。
 まさか、ちょっとした姫への気遣いでこんなことになってしまうとは……。

「すまないね、こんなことに君の時間を取らせてしまって」

 後ろ髪を引き裂かれる心地でミファーに背を向ける。振られるなら、その方がまだ幾分かマシだった。だがそれも自分が撒いた種だ。甘んじて受け入れるしかなかった。
 そうして、苦しい心の内をミファーにバレる前に星がきらめきだした空に飛び上がり村への帰途についた。
 死んだ魚のような目になっていることにも気づかないまま……。
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