リバミファ二次小説
【聖夜とマックスサーモン】
今年のクリスマスもハイラル城の晩餐会に招待された。
堅苦しい催し物は正直面倒なんだけど、他の連中も来るなら断る訳にはいかない。
そういえば去年のクリスマスの晩餐会の後、ミファーが『お魚も食べたかったな』とこっそり僕にこぼしてたっけ。
ハイリア人のクリスマスと言えばオルディンダチョウのローストやハテノ水牛のローストビーフが定番で、魚料理はないのだと姫に謝られたと聞いた。
リトの村のクリスマスではマックスサーモンのムニエルが定番だと言ったら、羨ましそうにしていたのを今も覚えている。
――仕方がない。
姫に相談してサーモンのムニエルを晩餐会で追加してもらおう。
無論、食材調達は僕の手でやるつもりだ。
ウッコ池やタマ湖で肥えたサーモンを探してこよう。
沢山捕まえると村の子供達の食べる分が減ってしまうから二、三匹で手を打つ事にした。
この時期のサーモンは脂が乗ってとても旨いから、ミファーだって喜んでくれるはず。
――折角のクリスマス。
魚好きなお姫様の為に、少しくらいお節介焼いたって良いだろう?
「魚が好き」人魚のあの子に贈り物
ご馳走の色はサーモンピンクで
◇ ◇
晩餐会でのミファーの喜びようは想像以上だった。
城の料理長が気を利かせてムニエル以外の魚料理を作ってくれたお陰で、今夜のミファーの席の前には様々なサーモン料理が並べられていた。
ここまでは何の問題もなかったのだが、これが僕発案だってことを姫が皆の前でうっかり口を滑らせてしまって酷い目に遭った。
ウルボザやダルケルにはニヤニヤされるしプルアにはしつこく茶化されて最悪だった。
あいつにまでどことなく微笑ましそうな目で見られるし……。
今思い出しても非常に腹が立つ。
城の中でなかったらあの絶妙にムカつく顔に飛び蹴りでも食らわしてるところだ。
しかし当のミファーが僕の手を取って涙目にまでなってお礼を言ってくるから、その怒りは結局表に出せずじまいとなった。
あいつが姫に相談してやってればミファーだってもっと喜んだろうにと、心の中で毒づきながら用意されたシャンメリーを一気に流し込むしかなかった。
意外なことにミファーはムニエルより塩焼きの方をいたく気に入ったようで「皮がパリパリしててすごく美味しい!」と、芳ばしい香りを漂わせるサーモンの焼き身を上品かつ豪快に頬張っていた。
並べられたサーモン料理達はあっという間に姿を消し、空になった皿が給仕係の手が間に合わない速度で積み上がっていく。
その速さに思わず食事の手を止め、ミファーの食べっぷりを密かに観察する。
――すごい。
大きめに切り分けられていたサーモンステーキを食べ終わるまでおよそ五口だ。
彼女の隣で食べている退魔の剣の主さえ上回るスピードである。
だがそこは流石ゾーラの王族、どんなにすごい速さで皿を空にしていっても優美な所作が崩れることは一度としてなかった。
去年はこんなに速く食べていなかった覚えがあるので、きっと魚を食べる時限定の完食スピードなのだろう。
ふと周りに目をやれば姫やウルボザも驚いた顔でミファーを見つめていた。
執政補佐官殿に至ってはフォークに刺したゴーゴーニンジンのグラッセを食べる直前で口をあんぐりとさせていて、その姿に危うくこっちが吹き出して醜態をさらすところだった。
軽く咳払いして笑いの衝動を外に逃しつつ「すごいよね……」とそれとなく呟けば、彼女達もまた同じような感想を小さくこぼす。
姫はいつもの研究熱心な癖が出て「ゾーラ族の魚を食べる速さというのは聞き及んでいましたが、まさかこれほどとは……。リンクの健啖さはもしかしてミファーを見習ってのものなのでしょうか。とても興味深いです」と何やらブツブツ言いながら考え込んでいる。
その神妙な顔が華やかなクリスマスの晩餐会の空気とチグハグでどこか微笑ましく、僕はウルボザとこっそり笑いあった。
僕らの心を汲み取ったかは定かではないがダルケルがサーロイン岩ステーキを頬張りながら「ミファーも相棒みてぇによく食うんだな! 良い食べっぷりだぜ」と豪放に笑う。
だが彼らにとっては普通の事だったようで、皆の驚く様子に二人揃ってキョトンとしていた。
あいつはハイリア人ではなくゴロン族とカテゴライズするとしても、ゾーラ族ってもっとこう――神秘的で儚いイメージがあったんだけど……。
案外、そうでもないのかもしれない。
ミファーもゾーラの兵士達も何かとすぐ無理をするし、もしかして根性とか気合いとかその手の精神論に重きを置いている可能性もありそうではある。
お姫様に対する認識を僕も改めなきゃいけないみたいだ。
「焼き鮭の皮のパリパリ楽しいね」
聖夜のエンジェル此処に降りたり
◇ ◇
晩餐会も滞りなく進み、皆がデザートに舌鼓を打っている時、それは起こった。
いや、起こってしまった。
「――――♪」
ミファーの様子がどこかおかしい。
頬も赤く、目はトロンととろけている。
手元にウルボザが強引に勧めたヴァーイミーツヴォーイの空瓶と空のグラスが並んでいるのが見えた。
単純にお酒に酔ってしまったようにも見えなくはないが……。
「ダルケルさん!」
それとなく様子を伺っていたらお姫様が突然立ち上がる。
「いつもとっくんつきあってくれて、ありがとー」
ミファーは一体どういう訳か、明るく声を弾ませて隣にいたダルケルのゴツゴツした頬に小さな唇を寄せた。
…………。
僕としたことがデザートのフルーツケーキを台無しにする所だった。
ダルケルは「おぅ、良いってことよ!」と普通に笑っていたが、他の連中は僕も含めて絶句していた。
インパは今度こそ気を失うのではと不安になるほど目を白黒させ、デザート用のスプーンをガチャンと皿の上に落とす。
それをたしなめる姫も姫で、突然のことに動揺したようで不自然な程に声が上ずっていた。
ミファーの事に一番詳しいだろう幼馴染のあいつにアレは一体何なんだと皆でこそこそと問うと「ミファーは酔うといつもああなんだ」と、いつもの仏頂面を少しだけ柔らかくしてポツリと語るのみだった。
――それを知ってるなら、ちょっと位、たしなめてやるか介抱するかしてやれよ。
幼馴染みが後々自分のやったことを知って恥ずかしくなるような行動を放置して何も感じないのかあの朴念仁は……っ?!
やっぱりあいつの考えている事は僕には1ミリも理解できない……!
完全に酔っ払ってしまったミファーは、その後も姫やインパだけでなく、事もあろうかハイラル王にまで信愛のキスを贈る。
和やかな雰囲気から一変して異様な空気になってしまった晩餐会会場から逃げようとしたロベリーも、ふざけたプルアに羽交い締めにされて気の毒だった。
上司には逆らえず、お姫様の柔らかな口付けを頬に受けた彼は何か意味の分からない言葉の羅列を叫んでフラフラと会場から退場していった。
ちなみにさっきまで城の楽団員と共にクリスマスに因んだ曲を演奏していたはずのシーカー族の宮廷詩人は、いつの間にかいなくなっていた。
嫌な予感がしたのだろう。あの詩人は楽器の腕だけでなく、逃げ足も素晴らしいようだ。
正直僕もこの場から逃げ出しかったが、主賓席は席を立つだけで目立つし逃亡は難しかった。
そうこうしてる内にミファーがニコニコしながら僕ににじり寄って来る。
酔っ払ったミファーは「りーばるにもおれいをしたいの」と宣う。
でもそれはお礼じゃなくて、ただのタチの悪い罰ゲームだと思うのだが……。
お姫様の魔の手から逃げたくて、思わず席を立つ。
すると隣に座っていたウルボザになんと首根っこを掴まれ、つまみ上げられた。
「ロベリーだって逃げなかったんだ。お前も観念しな。ヴォーイのくせに取り乱してみっともないねぇ」
と言われて、ミファーの前にホイと突き出されてしまった。
まるで犬か何かだ。仮にも同じ英傑なのに他の連中と比べて僕の扱いだけ酷いように感じるのは気のせいだろうか?
「えへへー、ぅるぼざしゃん、ありがとぉー」
更に呂律の回らなくなった口でミファーがウルボザにお礼を言い、他の連中にもやってきたように口づけを贈る。
そうして突き出された僕に両手を伸ばしてきた。
――もう、逃げられない。
「さーもんも、りーばるも、だーいしゅき」
万事休すだ。
柔らかいものが頬に触れて真っ白になる意識の中、マックスサーモンの芳ばしい香りが鼻腔を掠めていった。
◇ ◇
頬に柔らかく甘い感触がした直後、急に意識が遠のき気が付いた時は城内の僕用にと宛がわれた部屋のベッドの上だった。
慌てて起き上がるとベッド横に置かれた椅子にウルボザが座っていた。ひどく楽しそうに笑っていたように見えたが、気のせいではなさそうだ。
あの後一体どうなったのかと聞けば、僕はミファーに頬にキスされていきなり倒れてしまったのだと。
……。大方予想通りだったとは言え、それが事実であることに大いに頭を抱える。
絶対噂になるのは確実だ。
下手をすれば村の方にまで余計な尾ひれ背びれがついた状態で届いてしまうかもしれない。
最悪の事態を思ってげっそりする心地だった。
ウルボザには「お前も初心なところがあるんだねぇ」なんて言われた挙げ句、子どもにするように優しく頭を撫でられた。
――ものすごく、腹が立つ。
クスクスと笑う女傑の手を払いのけるように羽毛布団を頭までかぶり、大げさに寝返りを打つ。
そうして柔らかな布団の中で、もう二度とクリスマスにお節介なんぞ焼くものかと心に誓うのだった。
お魚の天使のお礼頬にキス
焼き極上トリ肉 も追加でどうぞ
今年のクリスマスもハイラル城の晩餐会に招待された。
堅苦しい催し物は正直面倒なんだけど、他の連中も来るなら断る訳にはいかない。
そういえば去年のクリスマスの晩餐会の後、ミファーが『お魚も食べたかったな』とこっそり僕にこぼしてたっけ。
ハイリア人のクリスマスと言えばオルディンダチョウのローストやハテノ水牛のローストビーフが定番で、魚料理はないのだと姫に謝られたと聞いた。
リトの村のクリスマスではマックスサーモンのムニエルが定番だと言ったら、羨ましそうにしていたのを今も覚えている。
――仕方がない。
姫に相談してサーモンのムニエルを晩餐会で追加してもらおう。
無論、食材調達は僕の手でやるつもりだ。
ウッコ池やタマ湖で肥えたサーモンを探してこよう。
沢山捕まえると村の子供達の食べる分が減ってしまうから二、三匹で手を打つ事にした。
この時期のサーモンは脂が乗ってとても旨いから、ミファーだって喜んでくれるはず。
――折角のクリスマス。
魚好きなお姫様の為に、少しくらいお節介焼いたって良いだろう?
「魚が好き」人魚のあの子に贈り物
ご馳走の色はサーモンピンクで
◇ ◇
晩餐会でのミファーの喜びようは想像以上だった。
城の料理長が気を利かせてムニエル以外の魚料理を作ってくれたお陰で、今夜のミファーの席の前には様々なサーモン料理が並べられていた。
ここまでは何の問題もなかったのだが、これが僕発案だってことを姫が皆の前でうっかり口を滑らせてしまって酷い目に遭った。
ウルボザやダルケルにはニヤニヤされるしプルアにはしつこく茶化されて最悪だった。
あいつにまでどことなく微笑ましそうな目で見られるし……。
今思い出しても非常に腹が立つ。
城の中でなかったらあの絶妙にムカつく顔に飛び蹴りでも食らわしてるところだ。
しかし当のミファーが僕の手を取って涙目にまでなってお礼を言ってくるから、その怒りは結局表に出せずじまいとなった。
あいつが姫に相談してやってればミファーだってもっと喜んだろうにと、心の中で毒づきながら用意されたシャンメリーを一気に流し込むしかなかった。
意外なことにミファーはムニエルより塩焼きの方をいたく気に入ったようで「皮がパリパリしててすごく美味しい!」と、芳ばしい香りを漂わせるサーモンの焼き身を上品かつ豪快に頬張っていた。
並べられたサーモン料理達はあっという間に姿を消し、空になった皿が給仕係の手が間に合わない速度で積み上がっていく。
その速さに思わず食事の手を止め、ミファーの食べっぷりを密かに観察する。
――すごい。
大きめに切り分けられていたサーモンステーキを食べ終わるまでおよそ五口だ。
彼女の隣で食べている退魔の剣の主さえ上回るスピードである。
だがそこは流石ゾーラの王族、どんなにすごい速さで皿を空にしていっても優美な所作が崩れることは一度としてなかった。
去年はこんなに速く食べていなかった覚えがあるので、きっと魚を食べる時限定の完食スピードなのだろう。
ふと周りに目をやれば姫やウルボザも驚いた顔でミファーを見つめていた。
執政補佐官殿に至ってはフォークに刺したゴーゴーニンジンのグラッセを食べる直前で口をあんぐりとさせていて、その姿に危うくこっちが吹き出して醜態をさらすところだった。
軽く咳払いして笑いの衝動を外に逃しつつ「すごいよね……」とそれとなく呟けば、彼女達もまた同じような感想を小さくこぼす。
姫はいつもの研究熱心な癖が出て「ゾーラ族の魚を食べる速さというのは聞き及んでいましたが、まさかこれほどとは……。リンクの健啖さはもしかしてミファーを見習ってのものなのでしょうか。とても興味深いです」と何やらブツブツ言いながら考え込んでいる。
その神妙な顔が華やかなクリスマスの晩餐会の空気とチグハグでどこか微笑ましく、僕はウルボザとこっそり笑いあった。
僕らの心を汲み取ったかは定かではないがダルケルがサーロイン岩ステーキを頬張りながら「ミファーも相棒みてぇによく食うんだな! 良い食べっぷりだぜ」と豪放に笑う。
だが彼らにとっては普通の事だったようで、皆の驚く様子に二人揃ってキョトンとしていた。
あいつはハイリア人ではなくゴロン族とカテゴライズするとしても、ゾーラ族ってもっとこう――神秘的で儚いイメージがあったんだけど……。
案外、そうでもないのかもしれない。
ミファーもゾーラの兵士達も何かとすぐ無理をするし、もしかして根性とか気合いとかその手の精神論に重きを置いている可能性もありそうではある。
お姫様に対する認識を僕も改めなきゃいけないみたいだ。
「焼き鮭の皮のパリパリ楽しいね」
聖夜のエンジェル此処に降りたり
◇ ◇
晩餐会も滞りなく進み、皆がデザートに舌鼓を打っている時、それは起こった。
いや、起こってしまった。
「――――♪」
ミファーの様子がどこかおかしい。
頬も赤く、目はトロンととろけている。
手元にウルボザが強引に勧めたヴァーイミーツヴォーイの空瓶と空のグラスが並んでいるのが見えた。
単純にお酒に酔ってしまったようにも見えなくはないが……。
「ダルケルさん!」
それとなく様子を伺っていたらお姫様が突然立ち上がる。
「いつもとっくんつきあってくれて、ありがとー」
ミファーは一体どういう訳か、明るく声を弾ませて隣にいたダルケルのゴツゴツした頬に小さな唇を寄せた。
…………。
僕としたことがデザートのフルーツケーキを台無しにする所だった。
ダルケルは「おぅ、良いってことよ!」と普通に笑っていたが、他の連中は僕も含めて絶句していた。
インパは今度こそ気を失うのではと不安になるほど目を白黒させ、デザート用のスプーンをガチャンと皿の上に落とす。
それをたしなめる姫も姫で、突然のことに動揺したようで不自然な程に声が上ずっていた。
ミファーの事に一番詳しいだろう幼馴染のあいつにアレは一体何なんだと皆でこそこそと問うと「ミファーは酔うといつもああなんだ」と、いつもの仏頂面を少しだけ柔らかくしてポツリと語るのみだった。
――それを知ってるなら、ちょっと位、たしなめてやるか介抱するかしてやれよ。
幼馴染みが後々自分のやったことを知って恥ずかしくなるような行動を放置して何も感じないのかあの朴念仁は……っ?!
やっぱりあいつの考えている事は僕には1ミリも理解できない……!
完全に酔っ払ってしまったミファーは、その後も姫やインパだけでなく、事もあろうかハイラル王にまで信愛のキスを贈る。
和やかな雰囲気から一変して異様な空気になってしまった晩餐会会場から逃げようとしたロベリーも、ふざけたプルアに羽交い締めにされて気の毒だった。
上司には逆らえず、お姫様の柔らかな口付けを頬に受けた彼は何か意味の分からない言葉の羅列を叫んでフラフラと会場から退場していった。
ちなみにさっきまで城の楽団員と共にクリスマスに因んだ曲を演奏していたはずのシーカー族の宮廷詩人は、いつの間にかいなくなっていた。
嫌な予感がしたのだろう。あの詩人は楽器の腕だけでなく、逃げ足も素晴らしいようだ。
正直僕もこの場から逃げ出しかったが、主賓席は席を立つだけで目立つし逃亡は難しかった。
そうこうしてる内にミファーがニコニコしながら僕ににじり寄って来る。
酔っ払ったミファーは「りーばるにもおれいをしたいの」と宣う。
でもそれはお礼じゃなくて、ただのタチの悪い罰ゲームだと思うのだが……。
お姫様の魔の手から逃げたくて、思わず席を立つ。
すると隣に座っていたウルボザになんと首根っこを掴まれ、つまみ上げられた。
「ロベリーだって逃げなかったんだ。お前も観念しな。ヴォーイのくせに取り乱してみっともないねぇ」
と言われて、ミファーの前にホイと突き出されてしまった。
まるで犬か何かだ。仮にも同じ英傑なのに他の連中と比べて僕の扱いだけ酷いように感じるのは気のせいだろうか?
「えへへー、ぅるぼざしゃん、ありがとぉー」
更に呂律の回らなくなった口でミファーがウルボザにお礼を言い、他の連中にもやってきたように口づけを贈る。
そうして突き出された僕に両手を伸ばしてきた。
――もう、逃げられない。
「さーもんも、りーばるも、だーいしゅき」
万事休すだ。
柔らかいものが頬に触れて真っ白になる意識の中、マックスサーモンの芳ばしい香りが鼻腔を掠めていった。
◇ ◇
頬に柔らかく甘い感触がした直後、急に意識が遠のき気が付いた時は城内の僕用にと宛がわれた部屋のベッドの上だった。
慌てて起き上がるとベッド横に置かれた椅子にウルボザが座っていた。ひどく楽しそうに笑っていたように見えたが、気のせいではなさそうだ。
あの後一体どうなったのかと聞けば、僕はミファーに頬にキスされていきなり倒れてしまったのだと。
……。大方予想通りだったとは言え、それが事実であることに大いに頭を抱える。
絶対噂になるのは確実だ。
下手をすれば村の方にまで余計な尾ひれ背びれがついた状態で届いてしまうかもしれない。
最悪の事態を思ってげっそりする心地だった。
ウルボザには「お前も初心なところがあるんだねぇ」なんて言われた挙げ句、子どもにするように優しく頭を撫でられた。
――ものすごく、腹が立つ。
クスクスと笑う女傑の手を払いのけるように羽毛布団を頭までかぶり、大げさに寝返りを打つ。
そうして柔らかな布団の中で、もう二度とクリスマスにお節介なんぞ焼くものかと心に誓うのだった。
お魚の天使のお礼頬にキス