失恋するリバミファ
【空に散る曼珠沙華】
―――ラネール地方、ラルート大橋。
「はぁ……」
ラルート大橋の欄干に寄りかかり自分の神獣がはるか遠くの空を翔けるのをぼんやり眺めながら、今日何度目かも分からないため息を吐いた。
背後に流れる滝から跳ねる飛沫達は酒で熱を帯びた体をひんやりと優しく撫で、橋の上空高くを悠々舞うシマオタカの甲高い声は沢山の拍手や歓声にしびれた耳を癒やしてくれる。
雨が頻繁に降るラネール地方において、珍しく今日は一日中雲一つない晴天だった。
ゆっくりと後ろを振り向く。
ここからでは滝があって、里の様子は当然ながら伺いしれない。
そんな状況であっても滝の向こうからは祝福の声や拍手が小さいながらもひっきりなしに聞こえてくるものだから、僕の心をいたずらにかき乱していくのだった。
先程まで、あの里ではミファーの結婚式が行われていた。
式は厳かながら多くの人が集まり、里は大きな賑わいをみせた。
式中、姫はミファーの新たな門出に心からの祝辞を述べ、その堂々とした姿はこれからのハイラルの未来を担うに相応しいものを皆に知らしめた。
ウルボザはゲルドの族長として街で作らせた特別な装飾品を祝いの品として持参し、ミファーに『必ず幸せになるんだよ』と涙まじりに手渡していた。
リト族の方でも族長が群青色の反物を献上した。
――反物に使われた羽毛の大半が僕のものである事は伏せさせてもらっている。
ダルケルが性懲りもなく大きな大きなロース岩を祝いの品としてドレファン王に渡そうとした時は流石に皆で全力で止めたりしたが、それ以外は本当に和やかに式は進行し、やがて滞り無く終了した。
「はぁ……」
そうしてまたため息を吐き、少しずつ茜に染まり始めた空を仰いだ。
◇ ◇
あのお姫様の幸せを想って黙ってその背中を見守ってきたつもりだった。
けど、実際は見守っていられる幸せを単に期間限定で与えられていただけだったのかもしれない。
そんなこと、今の今まで気付かなかったなんて……僕も相当ヤキが回っていたようだ。
「――――」
渡せないままグシャグシャにしてしまった手紙を懐から取り出す。
あんなに幸せそうなミファーを見たら、こんなもの渡す気も失せてしまった。
「慣れないことなんて、するもんじゃないね」
肩を竦めて自嘲の笑みを浮かべる。
僕は自分のことをもっと賢いやつだと思っていたのだが、案外そうでもなかったらしい。
恋というヤツはどんな者でさえも狂わせてしまう恐ろしいシロモノのようだ。
「でも、それに振り回されるのも今日で終わりだ」
少しの間目をつぶった後、既に役目を終えた紙くずを上空高く放り投げる。
ふわりふわりと……まるであのお姫様みたいに優美に宙を泳ぐソレに、炎の矢を放った。
渡す筈だった手紙は燃え盛る炎に触れた途端朱に染まり、やがて黒く燃え尽きていく。
その様は、いつかカカリコ村で見かけた曼珠沙華のようでもあった。
「燃え散ってくれ。全て、跡形もなく――」
花びらの如く静やかに降る黒く小さな燃えカスを無表情に眺めながら、祈るように呟く。
この手紙も僕の想いも……彼女の幸せを考えれば邪魔なものでしかないのだから。
―――ラネール地方、ラルート大橋。
「はぁ……」
ラルート大橋の欄干に寄りかかり自分の神獣がはるか遠くの空を翔けるのをぼんやり眺めながら、今日何度目かも分からないため息を吐いた。
背後に流れる滝から跳ねる飛沫達は酒で熱を帯びた体をひんやりと優しく撫で、橋の上空高くを悠々舞うシマオタカの甲高い声は沢山の拍手や歓声にしびれた耳を癒やしてくれる。
雨が頻繁に降るラネール地方において、珍しく今日は一日中雲一つない晴天だった。
ゆっくりと後ろを振り向く。
ここからでは滝があって、里の様子は当然ながら伺いしれない。
そんな状況であっても滝の向こうからは祝福の声や拍手が小さいながらもひっきりなしに聞こえてくるものだから、僕の心をいたずらにかき乱していくのだった。
先程まで、あの里ではミファーの結婚式が行われていた。
式は厳かながら多くの人が集まり、里は大きな賑わいをみせた。
式中、姫はミファーの新たな門出に心からの祝辞を述べ、その堂々とした姿はこれからのハイラルの未来を担うに相応しいものを皆に知らしめた。
ウルボザはゲルドの族長として街で作らせた特別な装飾品を祝いの品として持参し、ミファーに『必ず幸せになるんだよ』と涙まじりに手渡していた。
リト族の方でも族長が群青色の反物を献上した。
――反物に使われた羽毛の大半が僕のものである事は伏せさせてもらっている。
ダルケルが性懲りもなく大きな大きなロース岩を祝いの品としてドレファン王に渡そうとした時は流石に皆で全力で止めたりしたが、それ以外は本当に和やかに式は進行し、やがて滞り無く終了した。
「はぁ……」
そうしてまたため息を吐き、少しずつ茜に染まり始めた空を仰いだ。
◇ ◇
あのお姫様の幸せを想って黙ってその背中を見守ってきたつもりだった。
けど、実際は見守っていられる幸せを単に期間限定で与えられていただけだったのかもしれない。
そんなこと、今の今まで気付かなかったなんて……僕も相当ヤキが回っていたようだ。
「――――」
渡せないままグシャグシャにしてしまった手紙を懐から取り出す。
あんなに幸せそうなミファーを見たら、こんなもの渡す気も失せてしまった。
「慣れないことなんて、するもんじゃないね」
肩を竦めて自嘲の笑みを浮かべる。
僕は自分のことをもっと賢いやつだと思っていたのだが、案外そうでもなかったらしい。
恋というヤツはどんな者でさえも狂わせてしまう恐ろしいシロモノのようだ。
「でも、それに振り回されるのも今日で終わりだ」
少しの間目をつぶった後、既に役目を終えた紙くずを上空高く放り投げる。
ふわりふわりと……まるであのお姫様みたいに優美に宙を泳ぐソレに、炎の矢を放った。
渡す筈だった手紙は燃え盛る炎に触れた途端朱に染まり、やがて黒く燃え尽きていく。
その様は、いつかカカリコ村で見かけた曼珠沙華のようでもあった。
「燃え散ってくれ。全て、跡形もなく――」
花びらの如く静やかに降る黒く小さな燃えカスを無表情に眺めながら、祈るように呟く。
この手紙も僕の想いも……彼女の幸せを考えれば邪魔なものでしかないのだから。