何かを贈るリバミファ
【スミレの花とリトの英傑】
――ラネール地方、ゾーラの里入口
「――これを、私に……?」
「薬の素材が余っちゃってね」
差し出されたゴーゴースミレの小さな花束に思わず困惑の声をあげると、先程私を入口まで呼び出して今は花束を差し出している張本人であるリトの英傑は私の顔を見ずにボソボソと呟いていた。
「あ、ありがとう。でも、どうして……?」
薬に使う素材が余ったのなら、村の人に引き取ってもらうなり出来るはずだ。
その上、この辺りはハイラルでも有数のゴーゴースミレの群生地である。
わざわざ彼の故郷であるタバンタから遠く離れたゾーラの里まで来て、私にそれを手渡さなければならない意味がよく分からなかった。
「だ、だからただのお裾分けだって、お・す・そ・わ・けっ……!」
早口で言いながら花束を私に強引に押し付け、リーバルは逃げるように空に飛び上がって帰ってしまった。
「どうしたんだろう、一体……」
あっという間に空の霞 にまぎれて見えなくなってしまったリトの青年を目で追うのを諦め、押し付けられた花束に視線を落とす。
お裾分けと言う割に可愛らしいピンク色の紙に律儀に包まれた花束は、私の大好きなスミレ達が顔を覗かせていた。
「あっ! そういえば……」
しばらく悩んで、もうすぐ自分の誕生日だった事に思い至る。
自分の誕生日を忘れていた訳ではない。
あの戦士は馴れ合い(実際馴れ合いだとは私は思わないけれど)を嫌っているようだから、誰かの誕生日を祝うことなんてないと思っていた。
だからさっきの行動がそれとは中々結びつかず、気づくのが遅れてしまったのだ。
「普通におめでとうって言って渡してくれたら良かったのに」
彼が嫌いなはずの馴れ合いめいた行動を起こした矛盾も、本来の用件を告げずに花束だけ押し付けていく理由も、私の理解の範疇にない。
相変わらず、あの人の考えてることは良く分からない。
「あら、これ」
花束の中身を注意深く見てみれば、里近くで咲いてるものより青が濃いもの、白いもの、果ては桃色に近いものまでまじっていて色彩も豊かだった。
「綺麗……」
姫様がいつかの会合後のお茶会の席で、サトリ山と呼ばれる山の周辺では通常の個体とは違う色のゴーゴースミレが見つかることがあるらしいと教えてくれたのを思い出した。
それを聞いて、私もいつか見に行ってみたいと言った気がする。
もしかしてリーバルはそれを覚えていたのかもしれない。
お茶会でのなんでもない私の言葉を覚えてくれていたことがなんだか嬉しく、かつ少し照れくさくなる。
『あいつは気難しいんじゃないよ。単に……素直じゃないだけさ』
いつかウルボザさんがリーバルのことをそんな風に言っていたのを思い出す。
「確かに、そうなのかも」
サトリ山で色違いのスミレが咲くことがあるといっても数はそんなに多くはない筈だ。
しかも、あのスミレが咲いているのは大抵崖際だ。
それをいくつも探し出して摘むのには、随分骨が折れただろうというのは容易に想像できた。
そこまでして集めたスミレの花束を渡す際こちらの顔を一切見なかったリーバルの横顔を思い出し、なんとなく笑みがこぼれる。
「素敵なプレゼント……ありがとう、リーバル」
貰った花束をゆっくり抱きしめて、小さく呟く。
見上げた空はかの英傑の翼のように青く澄み渡っていた。
――ラネール地方、ゾーラの里入口
「――これを、私に……?」
「薬の素材が余っちゃってね」
差し出されたゴーゴースミレの小さな花束に思わず困惑の声をあげると、先程私を入口まで呼び出して今は花束を差し出している張本人であるリトの英傑は私の顔を見ずにボソボソと呟いていた。
「あ、ありがとう。でも、どうして……?」
薬に使う素材が余ったのなら、村の人に引き取ってもらうなり出来るはずだ。
その上、この辺りはハイラルでも有数のゴーゴースミレの群生地である。
わざわざ彼の故郷であるタバンタから遠く離れたゾーラの里まで来て、私にそれを手渡さなければならない意味がよく分からなかった。
「だ、だからただのお裾分けだって、お・す・そ・わ・けっ……!」
早口で言いながら花束を私に強引に押し付け、リーバルは逃げるように空に飛び上がって帰ってしまった。
「どうしたんだろう、一体……」
あっという間に空の
お裾分けと言う割に可愛らしいピンク色の紙に律儀に包まれた花束は、私の大好きなスミレ達が顔を覗かせていた。
「あっ! そういえば……」
しばらく悩んで、もうすぐ自分の誕生日だった事に思い至る。
自分の誕生日を忘れていた訳ではない。
あの戦士は馴れ合い(実際馴れ合いだとは私は思わないけれど)を嫌っているようだから、誰かの誕生日を祝うことなんてないと思っていた。
だからさっきの行動がそれとは中々結びつかず、気づくのが遅れてしまったのだ。
「普通におめでとうって言って渡してくれたら良かったのに」
彼が嫌いなはずの馴れ合いめいた行動を起こした矛盾も、本来の用件を告げずに花束だけ押し付けていく理由も、私の理解の範疇にない。
相変わらず、あの人の考えてることは良く分からない。
「あら、これ」
花束の中身を注意深く見てみれば、里近くで咲いてるものより青が濃いもの、白いもの、果ては桃色に近いものまでまじっていて色彩も豊かだった。
「綺麗……」
姫様がいつかの会合後のお茶会の席で、サトリ山と呼ばれる山の周辺では通常の個体とは違う色のゴーゴースミレが見つかることがあるらしいと教えてくれたのを思い出した。
それを聞いて、私もいつか見に行ってみたいと言った気がする。
もしかしてリーバルはそれを覚えていたのかもしれない。
お茶会でのなんでもない私の言葉を覚えてくれていたことがなんだか嬉しく、かつ少し照れくさくなる。
『あいつは気難しいんじゃないよ。単に……素直じゃないだけさ』
いつかウルボザさんがリーバルのことをそんな風に言っていたのを思い出す。
「確かに、そうなのかも」
サトリ山で色違いのスミレが咲くことがあるといっても数はそんなに多くはない筈だ。
しかも、あのスミレが咲いているのは大抵崖際だ。
それをいくつも探し出して摘むのには、随分骨が折れただろうというのは容易に想像できた。
そこまでして集めたスミレの花束を渡す際こちらの顔を一切見なかったリーバルの横顔を思い出し、なんとなく笑みがこぼれる。
「素敵なプレゼント……ありがとう、リーバル」
貰った花束をゆっくり抱きしめて、小さく呟く。
見上げた空はかの英傑の翼のように青く澄み渡っていた。