リバミファ二次小説
【試合をするリバミファ】
―――ハイラル城、練兵場
「そこっ!」
「ーーふん、甘いね……っ!」
勢いよく突き出された優美な三叉の穂先を薄く鋭い直槍が素早く薙ぎ、甲高い金属音が周囲に響く。
「たぁ!」
「…く…っ……! まだだよっ」
強い腕力を誇るリト族の翼でもって左右に振られる槍は速く重い。
ガィン、キィンと刃物が激しくぶつかる音が響き渡り、踊るように戦う両者の足元では小さくない土埃がぶわりと舞った。
◇
今、お城の練兵場で私はリーバルと練習試合の真っ最中だ。
ちなみに得物は槍。
いつもは大きな弓を携えてる彼の手には、リト族の戦士がよく使う風切り羽の槍が握られている。
ゾーラ族の槍の扱い方を教えて欲しいと言うリーバルの強い希望で、今日は朝から練兵場を借しきって二人で槍を振るっているのだ。
彼は槍はあまり得意ではないと言っていたけど、基本的な槍の捌き方は完璧と言って良い程で教えられることはないに等しかった。
リーバルとしては水辺でのより実戦的な戦法や技が知りたかったみたいだけど、それはお城の練兵場で教えられるものではないので後日ゾーラの里に来てもらうことにした。
詳しい日時を決めて約束を取り交わし、ではそろそろ帰ろうかと言いかけた時、私と槍で戦ってみたいと言い出して今に至る。
◇
「ここだ!」
「……っ!」
助走をつけて滑り込みながら突き出された短槍を光鱗の槍の穂先で払い上げていなす。
「チッ……」
「よし、もらったわ……!」
槍をいなされ体勢を崩した彼目掛けて、連続突きを繰り出そうと力を溜める。
「遅い……!」
「!? ……キャッ!」
――が、あちらが動く方が更に速かった。
私の次の一手を読んでいたかのように、小さなつむじ風が巻き起こりリトの英傑の体がフワリと浮く。
そのまま流れるように光鱗の槍の柄を足場に飛び上がり、気付いた時には槍の間合いから一気に離脱されていた。
「ふふっ、君もやるねぇ。今のは僕も結構ヒヤリとしたよ」
少し離れた場所にスタリと着地したリトの英傑は楽しそうにこちらに向き直る。
「……貴方こそ。今の動き、私も追いきれなかった」
多少手加減しているつもりだったけど、さっきのは反応できなかった。
私達によく自慢するだけあって、すごく速い。
「……それ、謙遜のつもり? こっちは離脱するだけで精一杯だったってのに。やれやれ、お姫様の優しさが身に染みるよ」
肩をすくませて、リーバルは私の純粋な賛辞に嫌味を返してくる。
どうして彼はいつも素直じゃないんだろう。
「もう、試合中に茶化さないで」
「明らかに手加減されてるのは分かってるんだ。この位の冗談は言わせてくれよ」
◇ ◇
「なぁ、ミファー」
一旦お互い呼吸を整えたところで、リーバルが唐突に嘴を開く。
「どうしたの?」
「この勝負、もし僕が勝ったら君をお嫁さんにもらってもいいかい?」
「……は?」
「だから、僕が勝ったら君を僕のお嫁さんにもらいたいんだって」
「えっ、えぇぇぇぇ……っ?!」
あまりに場違いで意味不明な言葉の羅列に、思わず素っ頓狂な声が出る。
「し、試合中にヘンなコト言うのは反則だよっ!」
練習試合とはいえ真剣に戦っていたのに、突然変な冗談で場を乱すリーバルに注意する。
だけど彼は平然としていて、その横柄な態度に若干むっとする。
「そんなに怒らないでよミファー。僕は至って真面目な話をしてるんだけど?」
彼は真剣な眼差しで風切羽の槍をゆっくり構え直し、その穂先を静かに私に向ける。
「君は僕より槍の扱いが上手いんだからさっさと本気出して勝てばそれでいい話だろ? ……違うの?」
私を真っ直ぐ見つめるヒスイの瞳は、ともすればこちらを酷く睨み付けているようにも見えてしまって……。
(これじゃ果し合いみたい)
ため息を一つ軽く吐き出して、光鱗の槍を構え直す。
「――分かった。そこまで言うなら私も本気を出すから覚悟して」
「ふん、その言葉を……僕はさっきからずっと待ってたんだよ!」
言い終わらない内にリーバルは地面を強く蹴って跳び上がり、空中から私に向かって槍を振り下ろしてきた。
地上からの攻撃は全て防がれるから、上からしかけることにしたようだ。
――どうも、さっきの言葉は私に本気を出させる為の一種の挑発だったみたい。
嘘や冗談でそんなコト言う人ではないと思うんだけど……。
(この人の考えてるコト、たまによく分からない)
ため息を軽く吐いて、上から降ってくるリトの英傑を冷静に観察する。
いつもの用心深さは無く、この一振りに全てを賭けているようだ。大振りなので私から見ても隙はたっぷりとある。
(これなら迎撃は容易いかな……)
腰を深く落としてしっかりと力を溜める。
そうして勢い良く繰り出されてきた鋭い槍を彼ごと一息に薙ぎ払ったのだった。
◇ ◇
「くそ…っ…手加減…し過ぎ、だろ…っ…」
――真っ二つに折れた風切り羽の槍の穂先が練兵場の土にサクリと刺さる。
その近くでは光鱗の槍から繰り出された強烈な斬撃をまともに受けて叩き落とされたリトの英傑が目を回して倒れていた。
「こんな狭い場所で飛び上がって攻撃しかけても危ないだけだよ、リーバル……」
リト族最強の戦士をうち落としたゾーラの王女は、のびてしまった彼を見つめて深く深くため息を吐いていた。
◇ ◇
それから数日して、城の医務室でリトの英傑がゾーラの英傑の治癒を受けながら長々と説教されているのを見たとの噂が城内の一兵卒の間で流れた。
また、同じ時期に苦虫を噛み潰したような顔をしているリトの英傑の肩をゲルドの英傑が大笑いしながらバシバシ叩いているのを見かけたとの話も出たが、彼らの間に何があったのか…真実は未だに定かではない。
噂好きの吟遊詩人が二人が練兵場を使った際あの場に控えていた騎士達に話を聞きに赴いたが残念ながら守秘義務故詳しい話は殆ど聞けず終いだったらしい。
ただ一つだけ、彼らは一様に『光鱗携えしゾーラの英傑は眠れる獅子なり』と苦笑いしてそう口々に言っていたという。
―――ハイラル城、練兵場
「そこっ!」
「ーーふん、甘いね……っ!」
勢いよく突き出された優美な三叉の穂先を薄く鋭い直槍が素早く薙ぎ、甲高い金属音が周囲に響く。
「たぁ!」
「…く…っ……! まだだよっ」
強い腕力を誇るリト族の翼でもって左右に振られる槍は速く重い。
ガィン、キィンと刃物が激しくぶつかる音が響き渡り、踊るように戦う両者の足元では小さくない土埃がぶわりと舞った。
◇
今、お城の練兵場で私はリーバルと練習試合の真っ最中だ。
ちなみに得物は槍。
いつもは大きな弓を携えてる彼の手には、リト族の戦士がよく使う風切り羽の槍が握られている。
ゾーラ族の槍の扱い方を教えて欲しいと言うリーバルの強い希望で、今日は朝から練兵場を借しきって二人で槍を振るっているのだ。
彼は槍はあまり得意ではないと言っていたけど、基本的な槍の捌き方は完璧と言って良い程で教えられることはないに等しかった。
リーバルとしては水辺でのより実戦的な戦法や技が知りたかったみたいだけど、それはお城の練兵場で教えられるものではないので後日ゾーラの里に来てもらうことにした。
詳しい日時を決めて約束を取り交わし、ではそろそろ帰ろうかと言いかけた時、私と槍で戦ってみたいと言い出して今に至る。
◇
「ここだ!」
「……っ!」
助走をつけて滑り込みながら突き出された短槍を光鱗の槍の穂先で払い上げていなす。
「チッ……」
「よし、もらったわ……!」
槍をいなされ体勢を崩した彼目掛けて、連続突きを繰り出そうと力を溜める。
「遅い……!」
「!? ……キャッ!」
――が、あちらが動く方が更に速かった。
私の次の一手を読んでいたかのように、小さなつむじ風が巻き起こりリトの英傑の体がフワリと浮く。
そのまま流れるように光鱗の槍の柄を足場に飛び上がり、気付いた時には槍の間合いから一気に離脱されていた。
「ふふっ、君もやるねぇ。今のは僕も結構ヒヤリとしたよ」
少し離れた場所にスタリと着地したリトの英傑は楽しそうにこちらに向き直る。
「……貴方こそ。今の動き、私も追いきれなかった」
多少手加減しているつもりだったけど、さっきのは反応できなかった。
私達によく自慢するだけあって、すごく速い。
「……それ、謙遜のつもり? こっちは離脱するだけで精一杯だったってのに。やれやれ、お姫様の優しさが身に染みるよ」
肩をすくませて、リーバルは私の純粋な賛辞に嫌味を返してくる。
どうして彼はいつも素直じゃないんだろう。
「もう、試合中に茶化さないで」
「明らかに手加減されてるのは分かってるんだ。この位の冗談は言わせてくれよ」
◇ ◇
「なぁ、ミファー」
一旦お互い呼吸を整えたところで、リーバルが唐突に嘴を開く。
「どうしたの?」
「この勝負、もし僕が勝ったら君をお嫁さんにもらってもいいかい?」
「……は?」
「だから、僕が勝ったら君を僕のお嫁さんにもらいたいんだって」
「えっ、えぇぇぇぇ……っ?!」
あまりに場違いで意味不明な言葉の羅列に、思わず素っ頓狂な声が出る。
「し、試合中にヘンなコト言うのは反則だよっ!」
練習試合とはいえ真剣に戦っていたのに、突然変な冗談で場を乱すリーバルに注意する。
だけど彼は平然としていて、その横柄な態度に若干むっとする。
「そんなに怒らないでよミファー。僕は至って真面目な話をしてるんだけど?」
彼は真剣な眼差しで風切羽の槍をゆっくり構え直し、その穂先を静かに私に向ける。
「君は僕より槍の扱いが上手いんだからさっさと本気出して勝てばそれでいい話だろ? ……違うの?」
私を真っ直ぐ見つめるヒスイの瞳は、ともすればこちらを酷く睨み付けているようにも見えてしまって……。
(これじゃ果し合いみたい)
ため息を一つ軽く吐き出して、光鱗の槍を構え直す。
「――分かった。そこまで言うなら私も本気を出すから覚悟して」
「ふん、その言葉を……僕はさっきからずっと待ってたんだよ!」
言い終わらない内にリーバルは地面を強く蹴って跳び上がり、空中から私に向かって槍を振り下ろしてきた。
地上からの攻撃は全て防がれるから、上からしかけることにしたようだ。
――どうも、さっきの言葉は私に本気を出させる為の一種の挑発だったみたい。
嘘や冗談でそんなコト言う人ではないと思うんだけど……。
(この人の考えてるコト、たまによく分からない)
ため息を軽く吐いて、上から降ってくるリトの英傑を冷静に観察する。
いつもの用心深さは無く、この一振りに全てを賭けているようだ。大振りなので私から見ても隙はたっぷりとある。
(これなら迎撃は容易いかな……)
腰を深く落としてしっかりと力を溜める。
そうして勢い良く繰り出されてきた鋭い槍を彼ごと一息に薙ぎ払ったのだった。
◇ ◇
「くそ…っ…手加減…し過ぎ、だろ…っ…」
――真っ二つに折れた風切り羽の槍の穂先が練兵場の土にサクリと刺さる。
その近くでは光鱗の槍から繰り出された強烈な斬撃をまともに受けて叩き落とされたリトの英傑が目を回して倒れていた。
「こんな狭い場所で飛び上がって攻撃しかけても危ないだけだよ、リーバル……」
リト族最強の戦士をうち落としたゾーラの王女は、のびてしまった彼を見つめて深く深くため息を吐いていた。
◇ ◇
それから数日して、城の医務室でリトの英傑がゾーラの英傑の治癒を受けながら長々と説教されているのを見たとの噂が城内の一兵卒の間で流れた。
また、同じ時期に苦虫を噛み潰したような顔をしているリトの英傑の肩をゲルドの英傑が大笑いしながらバシバシ叩いているのを見かけたとの話も出たが、彼らの間に何があったのか…真実は未だに定かではない。
噂好きの吟遊詩人が二人が練兵場を使った際あの場に控えていた騎士達に話を聞きに赴いたが残念ながら守秘義務故詳しい話は殆ど聞けず終いだったらしい。
ただ一つだけ、彼らは一様に『光鱗携えしゾーラの英傑は眠れる獅子なり』と苦笑いしてそう口々に言っていたという。