からかうリバミファ

【距離感の話】


「ねぇ、貴方には好きな人っている?」

 ミファーはこちらの事情も知らないで、返答に困ることばかり訊ねてくる。

「……君だと言ったら?」
「えっ、えぇぇ!?」

 ――ほら、やっぱりそんな顔をする。

 実際、自分が想い人である可能性なんてこれっぽっちも考えていないのだろう。
 その事実に密かに深い安堵と幾許かの哀しみを覚える。

「クスッ、冗談に決まってるだろ?」

 いつも通りの声音と表情で、己が心に偽りを纏う。

「なっ!?」
「全く、君は人を安易に信じ過ぎなんだよ」

 人を疑うことを知らないゾーラの英傑は、思惑通りにそれを僕の真意だと思って苦笑いする。

「もう、貴方って本当にいじわるね」

 相も変わらず、このお姫様は騙され易くてこっちが心配になってくる。
 だからこそ、こんな僕にさえ仲間として愛想を尽かさずにいてくれるのかもしれなかったが。

「すまないね、これが僕の性分だからさ」

 わたくしめはヴァーイの扱いも分からぬ田舎者の戦士ゆえ……と、おどけた声で緩やかにお辞儀してみせる。
 するとミファーは『そ、そんなにいじけた言い方しなくても良いのに』と鈴を転がすような声で柔らかく僕をたしなめていた。

 ――この距離感でいい、この距離感がいい。

 この代え難い安息を得られるならば…
(この穏やかでささやかな充足が喪われるなら)

 僕は死ぬまで嘘をつき続けるのみだ。
(例え死んだって真実を語らないだろう)

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